「天皇陛下は五輪懸念」と言わないとダメなところまで宮内庁長官が追い詰められたワケ

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「西村さんは会見の前に杉田官房副長官を通じて官邸に発言する旨を伝えており、菅首相以下、陛下のご懸念に言及することは耳に入っていました。だから驚きはなかったでしょうが、西村さん自身が“陛下はそうお考えではないかと、私は思っています”と言い切っているのを否定するのはムリがありますよね」

 と、社会部デスク。西村長官の人となりについて聞くと、

「ひとことで言うと優秀な能吏、組織に忠実な人です。1979年に警察庁に入庁し、主に警備畑を歩みました。2000年には沖縄県警本部長として九州・沖縄サミットの警備を指揮した後、警察庁警備局長、警視総監を務めて退官。内閣危機管理監を経て16年から宮内庁次長、19年から長官に就きました」

 警察官僚出身者が宮内庁長官に就くのは23年ぶりのことだった。

「安倍前首相時代から官邸を仕切る杉田副長官の意を受けて、宮内庁に送り込まれたというのがもっぱらの見方でした。ですから、普通は政府や官邸の足を引っ張るような言動を西村さんがすることはないわけですが、日ごろから陛下と接する中で、五輪開催を心配されている度合いが相当なレベルだというのはひしひしと感じ取っていたのだと思います」

菅首相の内奏の2日後

 先の宮内庁担当記者の話にも通じる内容だ。

「陛下は即位の際に、“常に国民を思い、国民に寄り添う”中で象徴の責務を果たすと誓われています。実際、お側に仕える侍従には、西村さんが言ったようなトーンよりもっと強く、心配を口にされていたと聞いています。国論を二分するテーマであるにもかかわらず、政府がそれを省みることなく開催に突っ走っているという印象を持たれたのかもしれません」
(先のデスク)

 6月22日、陛下が菅首相から五輪を主テーマに内奏を受けられたのだが、そこもひとつのタイミングだったのではないかという指摘がある。

「陛下はその説明内容に物足りなさを感じられたという話があります。陛下は政府分科会の尾身会長からもかねてご進講を受けていますが、尾身会長は“こういうパンデミックのところに(五輪を)やるということが普通ではない”とまで言っており、菅首相の説明では国民の不安を払拭するには至らず、感染拡大の可能性は否定できないと考えられたのかもしれません。西村さんが陛下に“言及してよいですか?”などと確認をし、それに言質を与えられたかまではわかりませんが、内奏の2日後に西村発言が飛び出していますから、西村さんに陛下が思いを託されたと理解するのが普通でしょう」(同)

 一方で西村発言は、「天皇は憲法で政治に関わらないと定められており、西村長官の発言は越権行為だ」と見る専門家もいる。

「そういった見方が出ることは当然想定したうえで西村さんも発言を行っていることでしょう。陛下の思いを受け止めたとして、それを公にするのか胸の内にしまっておくのか。今回は西村さんの中の組織に従順な面が出たのかもしれません」(同)

デイリー新潮取材班

2021年6月29日掲載

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