安倍前首相の音頭で「日の丸半導体」に数兆円投入? お寒い日本の現状を危ぶむ声

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製造装置や素材分野に焦点を

「自前主義では無理だ」(甘利氏)という現実論もある。そこで期待されるのが、前述した熊本県でのTSMCの生産拠点誘致プランだ。だが、実現した場合でも製造する製品は回路線数が16ナノ(10億分の1)メートルや28ナノのレベル。超高速で計算や情報を処理できる2~5ナノのレベルの「次世代、最先端」の半導体には程遠く、「それほど高度ではない民生品」となる。要は、最新型のゲーム、スマホ、PC、自動車に使えるようなものではないのだ。高額の電気料金といった問題もあり、TSMCは次世代とされる2~3ナノ、最先端の5ナノのレベルの半導体の日本での量産を見送った。もとより、今の日本のメーカーに最先端レベルの量産技術はなく、80年代の栄光の「技術立国」とはかけ離れた状況だ。

 TSMCが今回、生産拠点に日本を選んだのは、米中対立や台湾有事を警戒した場合の、「安全保障上のリスクヘッジ」にすぎない。土地が広大で、電気料金も手頃な上、供給先企業が多い米国本土を検討する動きもあったが、いきなり米国に拠点を置いた場合、中国政府の反発を買う可能性が大きい。日本が選択肢に上がったのは、あくまで消去法でのことだ。しかし、土地が広い上に電気代が安く、さらには製造に最適な乾燥している気候のオーストラリアなども最先端製品製造の有力候補地に挙がっており、熊本に続く国内誘致の見通しは立っていない。

 もっとも、日本が世界のトップクラスの半導体開発、製造に参加できなくとも、半導体製造装置や素材分野では、東京エレクトロンやアドバンテストといった企業が、世界においても高い競争力を示している。だからこそ、

「日本がまだ優位性を持つ半導体製造装置や素材分野に焦点を当てるべきです。半導体製造そのものは他国に任せても良い。安易に最先端分野で日の丸半導体を目指せば、また注ぎ込まれた莫大な公的資金を国民が負担させられることになりかねません」(前出有力コンサルティング会社幹部)

デイリー新潮取材班

2021年6月25日掲載

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