24年間で12億円を詐取した長崎の元郵便局長 家4軒に車21台…“地元の名士”の手口

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知人は「まさか」

 上田容疑者が詐欺に用いたのは、1993年に廃止された金融商品『MMC預金(市場金利連動型定期預金)』の証書だという。総務主任として勤務していた長崎市内の別の局から大量のMMC預金の証書を不正に持ち出し、自宅に保管。被害者にはこの証書や証書のコピーを手渡していたという。

 とはいえ、なぜ60人もが騙されたのだろうか。

「昨年、詐欺事件として大きく報じられた第一生命の89歳のセールスレディの手口と非常に似ていますね」

 と語るのは、詐欺事件に詳しいジャーナリストの多田文明氏。

「特定郵便局長というのは地元の名士ですから、みんなから信頼されて、おかしいと思っても口がだせない。チェック機能が働かないのです。上田容疑者は幅広い人脈があり、ロータリークラブの会員にもなっていて、その会員からも詐取しています。ゴルフ仲間や親類も巻き込んでいますが、誰かがおかしいと思っても、みんながやっているから大丈夫かな、という群集心理が働いたのでしょう。それで延々と詐取することができたのです。世襲という環境も犯罪を産む温床となったでしょう」

 実際、上田容疑者の知人はこう語る。

「とにかく、驚きましたね。24年間も騙し通していたなんて信じられません。彼の父親は地元のみんなから尊敬を受けていましたから。郵便局に行くと、局長から『中へあがれ』と言われて、よく世間話をしたものです。彼の娘さんの進学相談に乗ってあげたこともあります。彼の息子さんの結婚式にも参加しました。私には、架空預金の話は一切しなかったのですが……。もっとも彼は父親と違って、名士という感じではなかったですけどね」

 上田容疑者は長崎新聞(2006年11月5日付)の「郵便局のある風景」に登場している。以下はその抜粋である。

《地域の方から地元行事への参加の誘いがあると、「地域に溶け込んでいる」と実感します。「地域に根差した仕事をする」。この基本理念は、民営化されても守っていかなければと思います。》

 まさに“地域に根差し”、コトを行っていたわけだ。

デイリー新潮取材班

2021年6月24日掲載

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