「中途失明」原因ダントツ1位の「緑内障」の防ぎ方 自宅で簡単に検査する方法も

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 日本における「中途失明」原因の第1位であり、60歳以上の約1割が罹患しているとされる緑内障――。

 初期から中期にかけては自覚症状がほとんどなく、症状は不可逆性で、進行すると失明に至ってしまう。目の“サイレントキラー”と呼ばれる所以である。

 そんな緑内障を発症させる原因のひとつが高い眼圧だ。世界一の眼科外科医を意味するクリチンガー・アワード受賞の“スーパードクター”である深作眼科の深作秀春院長が、そのメカニズムを解説する。

「眼圧が高くなるのは、眼球を満たす房水(ぼうすい)という液体が流れにくくなることにあります。房水は毛様体から産出され、その後、角膜近くの隅角(ぐうかく)から線維柱帯を通過し、シュレム管に排出されます(掲載の図を参照)。通常はそうして一定の眼圧バランスが保たれていますが、遠視や白内障で隅角が狭くなったり、網目状の流出路である“線維柱帯”が詰まると房水がうまく排出されなくなる。その結果、“眼圧”が高まって視神経を障害。視野が狭くなり、失明しかねない状況になってしまうのです」

 緑内障のもうひとつの原因は“機械的圧迫”や“血流障害”。強度の近視の人の場合、眼球が前後に伸びて圧迫や血流不足で視神経にダメージを与えやすい。

 緑内障で障害された視神経は元に戻らないため、点眼薬で眼圧を下げ、進行を抑えることが治療の基本となる。初期から中期の患者にとっては、かなり有効な治療なので早期発見が大切だ。ただ、眼圧が正常範囲内でも血流障害で緑内障を発症する人は多いため、眼圧だけでなく、眼底検査や視野検査などを受ける必要がある。

 深作院長は、定期的な眼科検診のほか、自宅でも簡単にできる視野検査を推奨している。

「おすすめしたいのが“カレンダー法”。大きなカレンダーを用意して、中心付近の日付に印をつけ、片目ずつ視野いっぱいに広がるところまで接近し、目を動かさないで周囲の日付を読みあげていきます。緑内障で視野の一部が欠損していると、見えない数字があるはず。また、方眼紙を用意して、歪んでいる部分や見えない部分がないかどうか確かめるのもいいでしょう」

濾過手術

 一方、緑内障には手術という選択肢もある。

「“トラベクロトミー”という緑内障手術です。これは、隅角の線維柱帯の網目に詰まった色素や線維などを、シュレム管内に細いコードを通して線維柱帯全周を前房へと切り開き、流出抵抗を弱めて、房水の流れを良くし、眼圧を下げます。分かりやすく言えば、下水溝の詰まりを解消するわけです。手術後、2週間ほどは出血で一時的に視力が落ちますが、身体への負担も大きくありません。他にも、詰まった線維柱帯の一部を切り取ってシュレム管以外の通路を作り、結膜下に房水を流す“トラベクレクトミー”という濾過手術もあり、非常に効果的です」

 また、深作眼科では、糖尿病などの影響で起こる“血管新生緑内障”などの難治緑内障に対する手術も行っている。

 これは、線維柱帯に新たな血管が張り込んで線維化し、隅角を塞いでしまうという症状に対処するものだ。血管新生緑内障の場合、通常の手術では、すぐに閉じて効果が無くなる。新たに開発された手術法は、眼内内視鏡を使い、モニター上の直視下で毛様体突起にレーザーを照射して、毛様体を破壊収縮させる。従来、効果的な治療法がなく、完治が難しくあきらめていたケースを救う画期的な手術と言える。この方法は米国では広範に実施されているが、日本ではまだ深作院長しか手がけていない。

 さらに、手術以外で重要なのは、血流障害をよくすることだ。

 深作院長は緑内障の患者に、サプリメントなどでビタミンB3(1日2千ミリグラム以上)を摂取することを推奨している。視神経への血流が悪い人は眼圧が低くても緑内障になることがあるため、ビタミンB3(ナイアシン)摂取で血流を良くして、傷んだ視神経に栄養と酸素を運ぶのである。

「緑内障はかなり複雑な病気なので、さまざまな手術を組み合わせないと症状をコントロールできません。残念ながら、日本ではそうした治療がまだ実現できていない面が多く、患者さんも緑内障になると“失明するしかない”と思い込んでしまう。現在は点眼剤による薬物療法が主流ですが、年齢によっては進行具合を遅らせるのにも限界がある。100歳まで生きる長寿の時代には、適切な手術を手遅れになる前に実行することが重要だと感じます。あらゆる緑内障手術に慣れた術者を探すことが重要です」

 緑内障は失明につながり、高齢者は誰もが罹る病気だが、早期発見すれば効果的に進行を遅らせることができ、その後は手術で進行を止められる可能性が高い。

「40歳を過ぎたら年に1回は眼科検診に行く習慣をつけてほしい」

 とアドバイスする深作院長。そうした努力が、人生100年時代の目の健康には必須と言えよう。

上條昌史(かみじょうまさし)
ノンフィクションライター。1961年東京都生まれ。慶應義塾大学文学部中退。編集プロダクションを経てフリーに。事件、政治、ビジネスなど幅広い分野で執筆活動を行う。共著に『殺人者はそこにいる』など。

週刊新潮 2021年6月17日号掲載

特集「早期発見・早期治療できなければ『失明』危機 “目のサイレントキラー”に克って老後に『光あれ!』」より

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