BTS成功の要因は極貧下積み時代? ファンの「応援文化」も後押しに

エンタメ 2021年6月10日号掲載

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 いまやK-POPの枠を超え、世界的スターの仲間入りを果たしたBTS(防弾少年団)。だが、ケタ違いの成功を収めた韓国の7人組アイドルはエリート街道を歩んできたわけではない。極貧の下積み生活を経て名声を獲得した、彼らのサクセスストーリーに迫る。

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 コロナ禍の暗い影に覆われた世界を席巻したのは、どこまでもポップで軽快なBTSの「Dynamite」だった。

 破竹の快進撃を続けるBTSは昨年、韓国人の歌手で初めてグラミー賞にノミネートされ、今年5月には「ビルボード・ミュージック・アワード」で4冠に輝いた。先の「Dynamite」は、昨年8月の発売と同時に全米ビルボードチャートのトップを獲得。アジア系アーティストの楽曲としては、1963年に坂本九が「上を向いて歩こう」で1位となって以来、実に57年ぶりの快挙である。

 米国在住のライター・竹田ダニエル氏によると、

「アメリカでもこの2~3年で人気が拡大しつつありましたが、『Dynamite』で爆発した感がありますね。最近は『The Late Late Show』や『The Tonight Show』といった歴史あるトークショー番組にも出演しています。番組の終盤で披露するパフォーマンスも、BTSは常に手の込んだ演出を用意している。まるでミュージックビデオのようなクオリティで、それを観てファンになった人も少なくありません。かくいう私もその一人です」

 BTSが所属する「ビッグヒットエンターテインメント」は昨年10月に韓国株式市場で上場を果たし、時価総額は一時、1兆円を超えた。今年に入って社名を「HYBE(ハイブ)」に改めると、4月にはアメリカの総合メディア企業、イサカ・ホールディングスを10億5千万ドル(約1160億円)で買収すると発表。イサカにはジャスティン・ビーバーやアリアナ・グランデといったスター歌手が在籍している。

「先日、トーク番組に出演したBTSは、司会者から“ジャスティン・ビーバーと共演するのは夢ですか?”と尋ねられた。その時にリーダーのRMが“彼とは同じ会社なので、一緒にやりたいと言ってくれれば共演しますよ”と発言したのには驚かされました。アメリカ優位、白人優位というエンターテインメント業界の構図をBTSは塗り替えようとしているのです」(同)

 世界の音楽シーンを舞台に躍進を続けるBTS。だが、彼らが歩んだスターへの道のりは決して平坦なものではなかった。

 そもそも、BTSは多くの韓流アイドルのように、SMやJYP、YGという韓国の三大芸能事務所に所属しているわけではない。

「BTSは、音楽プロデューサーのパン・シヒョクが、JYPから独立してビッグヒットエンターテインメントを立ち上げ、初めて手掛けたグループです。2013年にデビューしますが、当時は数ある新人アイドルグループのひとつという印象で、韓国での注目度もいまひとつでした。大手の事務所に所属していないため、テレビの音楽番組に登場する機会も限られ、下積み時代には彼らのことを“土の匙アイドル”と揶揄する声もあったほどです」

 そう語るのは、韓国文化に詳しいライターで『BTSを読む』(柏書房)を翻訳した桑畑優香氏である。

 韓国社会では、親の職業や経済力に応じて、若者が金の匙、銀の匙、銅の匙といった階層に分けられる“スプーン階級論”が取り沙汰されてきた。

「土の匙は、銅の匙よりもランクが下という意味です。実は、BTSはソウル以外の地方都市で育ったメンバーばかり。韓国では人口の約半分がソウル周辺の首都圏に集中していて、ソウルにある名門大学を卒業しないと一流企業への就職もままならない。加えて、大手の芸能事務所は、世界規模のオーディションや海外でのスカウト、英語が堪能な帰国子女などから新人を選抜している。それに比べるとBTSは圧倒的に地味な存在でした」(同)

急増したARMY

 たとえば、メンバーのSUGAは裕福でない家庭に育ち、10代の頃から音楽スタジオでアルバイトをして小遣いを稼いだという。韓国メディアのインタビューでも、〈スタジオ隣の中華料理屋で2千ウオン(約200円)のジャージャー麺を食べるとバス代がなくなって家まで2時間歩くしかない。千ウオンのソバで我慢するか、毎日のように悩んでいました〉と語っている。現在の事務所で練習生になっても困窮した生活は続き、デリバリーのアルバイト中に交通事故で左肩にケガを負ったことも。SUGAは昨年、左肩の手術を受けるため活動を一時休止したが、その古傷が原因だった。

 デビュー後もBTSのメンバーはアパートの一室で共同生活を送り、玄関は7人分の靴で溢れ返るような状態。狭い寝室に並んだ2段ベッドで寝起きし、車座になって食卓を囲みながら、海鮮スンドゥブ鍋やチャプチェを分け合った。

 興味深いのは、そんなブレイク前の極貧生活を、彼らが“売り出し戦略”に活用したことだ。

「満足にテレビ出演できなかったBTSは、普段の生活や練習風景をYouTubeやブログで発信してきました。時には“本当の自分を見つけられなくてつらい”と弱音を漏らす姿も。当時のK-POPアイドルとしては異例でしたが、こうした動画がSNSで拡散され、若者から共感を呼んだことで、世界中に“ARMY”が急増していったのです」(同)

 BTSを語る上で、ARMYと呼ばれるファンの存在を欠かすことはできない。

『K-POPはなぜ世界を熱くするのか』(朝日出版社)の著者・田中絵里菜氏によれば、

「BTSは17年にビルボード・ミュージック・アワードで“トップソーシャルアーティスト賞”を受賞します。この賞はファン投票に加え、動画配信サイトや音楽ストリーミングの再生回数などが審査を左右するため、ARMYは“スミン”によってBTSをトップに押し上げました」

 スミンとは、同じ音源や動画を何度も視聴して再生回数を上げる応援文化のことだ。

「BTSファンは世界中にいるので、時差を利用して昼夜を問わずスミンが続けられました。BTSがジャスティン・ビーバーの牙城を崩してこの賞に輝いた衝撃は大きかったですね。また、ARMYが韓国政府を動かしたこともあります。メンバーの兵役免除を求める“国民請願”が19年に起こり、20万人を超える署名があっという間に集まりました。結果、兵役期限を2年間延期する法案が可決された。BTSが五輪メダリストと同じレベルで評価されたということです」(同)

 しかも、熱狂的ファンたちはBTSの広報活動まで担っているという。

「ライブ中の写真や動画を撮影してネット上に公開するファンは少なくありません。また、韓国最大の動画配信プラットフォーム『V LIVE』で配信されたBTSの動画は、ファンの裁量で外国語の字幕がつけられて世界中に広まっています。『V LIVE』はファン字幕を公式に推奨しており、その結果、国外ファンも言葉の壁なく楽しめるようになっています。一方、撮影した写真を展示したり、グッズ化してファン同士で楽しむ文化もありますが、もちろん、ファンの目的はお金儲けではないので、配信した動画で利益が出れば“応援広告”に注ぎ込まれます。応援広告とは、ファンがお金を出し合い、BTSの周年記念日などのタイミングで、駅やバス停の広告スペースを購入してメンバーの写真を掲げることを意味します。ファンの増加に伴って規模が拡大し、ニューヨークのタイムズ・スクエアの巨大スクリーンに応援広告が登場したこともありました」(同)

強烈なメッセージ

 それにしても、彼らが世界中のファンの心を掴んで離さないのは何故なのか。

 音楽評論家の湯川れい子氏はこう指摘する。

「BTSはオーディションの段階からフリースタイル、つまり即興のラップバトルで激しく競い合って選抜されています。そこで表現力や豊富な語彙、オリジナリティを養い、さらに、1日15時間に及ぶレッスンでダンスに磨きをかけたそうです。『Dynamite』までの楽曲は韓国語の歌詞でしたが、それでも欧米で受け入れられたのはダンスのレベルの高さによるところが大きいと思いますね」

 他方、楽曲の魅力に言及するのは、音楽ライターのまつもとたくお氏である。

「BTSはデビュー以来、ヒップホップをベースに活動してきましたが、15年から16年にかけてリリースされた『花様年華』3部作で路線を変更します。そこでは青春期の危うさや未来への不安を歌い上げ、“陰影のあるポップス”にシフトしていった。彼らは昨年、英語詞のディスコナンバー『Dynamite』で世界的ヒットを記録しますが、次にリリースした『Life Goes On』もビルボード1位を獲得しています。この楽曲はまさに陰影のあるポップスで、歌詞も韓国語。BTS本来のスタイルで結果を出したことで、彼らの人気が一過性のお祭り騒ぎではないことを証明しました」

 日韓のポップカルチャーに詳しい一橋大大学院法学研究科のクオン・ヨンソク准教授は、次のように分析する。

「たとえば、『ダルマエナガ』という曲では、自分たちを足の短いダルマエナガという鳥に喩えて、足の長いコウノトリと同じ草原で競争させられる理不尽さを歌っている。格差社会や不公平な競争社会への批判は、韓国以外の国々に住むファンの心にも響いたと思います。一方、『Not Today』では現実に挫折し、自殺願望を持つ若者たちに対して“死ぬにはtoo good day(あまりにもいい日だ)”とクールに呼びかけました。また、中心メンバーのRMはソロ曲『Do you』で“主人として生まれたのに なぜ奴隷になろうとしてんだ”と歌います。ジョン・レノンやボブ・ディランのようにメッセージを強く打ち出す、アイドルらしからぬ姿勢が共感を呼んでいるのです」

 K-POPという枠を超え、音楽シーンに新たな潮流をもたらしたBTS。血統書付きではなく、アンダードッグ(負け犬)の立場から這い上がった彼らのサクセスストーリーはまだまだ続きそうである。

特集「『超極貧の下積み』から『時価総額1兆円超』へ 韓国『BTS』の血統書付きではない『メンバー選抜法』と『売り出し戦略』」より