今期最も説明が難しい「きれいのくに」 意表を突く展開と社会を映すメッセージ性が珍しい!

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 始まりは夫婦の日常。仲はいいがセックスレス。子供はいない。美容師の妻は43歳。税理士の夫には前妻との間に娘がいて、娘の誕生日は必ず前妻と祝う。実は妻の誕生日も同じ日。こういうモヤモヤは大好き! しかも妻は吉田羊、夫は平原テツ。堅実なキャスティングに感心していたら、別の男女も登場。プライドだけ高くて働かない夫の橋本淳にイラつく蓮佛美沙子。33歳で離婚した蓮佛と、仕事上で出会うのが税理士のテツ……ん? 蓮佛は若かりし頃の羊? 回想シーンなの? 話はまだこれから。

 ある朝、テツが目覚めると43歳の羊が33歳の蓮佛に若返っていた。ただし、そう見えるのは自分だけ。さらには23歳の小野花梨へ。もはや自分が出会う前の知らない女に困惑するテツ。逆に、妄言を言い出す夫に愚痴をぶつける妻。このモヤモヤハラハラの話の合間にちょいちょい登場するのが謎のインタビュアー・稲垣吾郎。夫婦に取材している様子。え、何コレ? 女に若さを求めがちな男への鉄槌? または妻を理解できない男の心の病を描写?

 と思っていたら、舞台は一変。とある高校の教室へ。生徒は啓発映画を見せられている。つまり、今までの「羊→蓮佛→花梨」のエピソードは映画の内容なのだが、生徒たちにはたいして響かず。この第3話からは近未来というか、やや異世界の高校生5人の青春群像劇へ。

 NHKが満を持して月曜日に移動したよるドラ枠で、今期最も視聴者を困惑させている「きれいのくに」の話だ。とにかく説明がムズイ! 要するに、全8話のうち第3話の途中までが前ふり。本編はあくまでSF。

 トレンドに流されやすいこの国は皆がこぞって美容整形をした結果、成人男性は稲垣吾郎、成人女性は加藤ローサの顔になっている。遺伝子編集まで行った人はその子供もゴロー顔かローサ顔に。逆に、少数派の非整形の人は「プレーン」と呼ばれ、謂れなき差別を受けている。政府は美容整形手術を禁止するに至った世界。「少し不思議」な世界だが、リアリティはかなりある。ゴロー&ローサだらけの絵面は不気味だが、「右に倣え」の稚拙な国民性を小馬鹿にした皮肉は面白いし、多数派支配の危うさに言及したメッセージ性は強烈。私はそういうの大好きです。

 そしてもうひとつのSF。高校生の「SEX&FRIENDS」を生々しく大胆に描く点も秀逸。血の付いたコンドームで見せる男女の感覚のズレなんて最高の表現だ。昨今の恋愛モノは生々しさをしれっとすっ飛ばすから。やることはやれ。

 また、高校生役の5人が超絶自然体。高校生ってこんな感じよねという現実味、若者特有の青臭さや残忍さ、口語独特のライブ感と時短感をさらっと体現。人選にセンスと矜持を感じるわ。

 ここまでキャスティングが新鮮で、意表を突く展開、社会を映し出すメッセージ性のあるドラマは珍しい。その気骨と時間と予算は民放局にはないか。ないな。いらん配慮と忖度で表現を濁して殺すことなく、内容も人選も使い回しと定番から脱却できたらいいのにね。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビドラマはほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2021年6月10日号掲載

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