浅草寺が商店街に立ち退き要求 数年前の「仲見世騒動」に続き

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 東京・浅草に立つ「浅草寺」が、店子に16倍の家賃を請求して賛否両論となった「仲見世騒動」から早や3年――。日本を代表する観光地で今度は立ち退き問題が勃発している。昭和の香り漂う商店街の一角が、存亡の機にあるというのだ。

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 浅草界隈もコロナ禍で青息吐息。そこに追い討ちをかけるような“退去要請”を受けたと訴えているのが、32店舗が加盟する「浅草伝法院通り商栄会」である。

 現場は、仲見世通りから西へ向かう約200メートルの伝法院通り沿いの一角。土産物店や洋品店など小さな商店が立ち並ぶ。仲見世に似た雰囲気と相俟(あいま)って、観光客にもお馴染みのスポットとして人気を博してきたが、今春から商栄会が配布を始めた立ち退き反対署名のチラシには、事の経緯がこう書かれている。

〈昨年の5月、区の代理人弁護士から、商栄会の全店舗宛に、伝法院通りの不法占拠であるので、6月30日までに建物を撤去して、伝法院通りを明け渡すよう求める内容証明郵便がきました〉

 件(くだん)の反対署名は1カ月あまりで約7千名分が集まったというが、不法占拠と聞けば穏やかではない。

「道路上の営業は違法と言われても、区から公認されてきた歴史もあるんです。今さら退去はないんじゃないかというのが我々の気持ちでして……」

 と話すのは、商栄会の代表を務める衣料品店の店主だ。

「始まりは戦後の混乱期で鉄の棒に布や板を引っかけた形の店ばかりでしたが、1977年に浅草公会堂が建てられた際、当時の区長にご尽力をいただき鉄筋の建物を作ってよいとなった。その後、商店会として使用料を払った方がいいんじゃないかと区長に持ち掛けたところ、それはなくていいと言われたそうです。ある意味、人情みたいなところでやってくれた歴史を顧みれば、我々も区と連携して浅草の復興を担ってきた自負があります」

「違法ですから」

 区は退去に応じなければ、裁判を起こして過去に遡(さかのぼ)れる分だけ地代を請求するとまで主張しているとか。

 地元の古老によれば、

「なぜ急にそんな話を、と区の職員に聞いたら、“浅草寺さんがどかしてほしいと言っていて……”と話していた。なんでも商店の背後に隠れている寺の歴史的な壁を見えるようにして、京都のような風情を出したいとか。でも道路は区の所有だから大っぴらには言えず、行政を通してきたのでは」

 実際、「仲見世騒動」でも地元商店と揉めて「戦争寺」と揶揄(やゆ)された経緯がある。

 そこで、まずは台東区役所の道路管理課に聞くと、

「浅草寺さんから依頼があったかどうかは言いづらいというか、正式に打診されたわけではないです。いずれにせよ、道路上の違法状態は解消しなければいけませんので……」

 名指しされた当の浅草寺側はどう答えるか。

「区に頼んだことはないし、我々が何か言う立場にはありません。商店街の良さや面白さはあると思いますが、違法ですから区としてもやりなさいとは言えないのでしょう」(守山雄順執事長)

 にわかに浅草の街は漆黒の雷雲に覆われ、稲妻が落ちたかの如き分断が生じている。

週刊新潮 2021年6月10日号掲載

ワイド特集「鬼が出るか蛇が出るか」より

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