タクシー利用もOK、筋書きあり……昔のテレ東「バス旅」は今とはこんなに違った

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 6月5日(土)、テレビ東京系の人気番組「ローカル路線バス乗り継ぎの旅Z」(18:30~)最新作がおよそ半年ぶりに放送される。田中要次と羽田圭介のコンビが女性ゲストのマドンナとともにローカル路線バスのみを乗り継ぐ旅番組で、第16弾となる今回は梅宮アンナ(48)が参加。“岡山・後楽園~山口・錦帯橋”のルートをめぐる。

 今回は途中、広島の尾道と島根の出雲大社の2つのチェックポイントに立ち寄らなければならないことになっている(順番に決まりはなくどちらから攻めても可)。このように、旅の「ルール」が設けられているのが本番組の特徴だ。主なものとして、1「移動は原則としてローカル路線バスのみを使用。高速バス、鉄道、飛行機、船、自転車、ヒッチハイクなど、他の交通機関の利用は禁止」、2「目的地へ向かうルートは自分たちで決める。インターネットでの情報収集は禁止。地図や時刻表、案内所や地元の人からの情報を頼りにゴールを目指す」、3「3泊4日で指定の目的地にゴールすること。旅はすべてガチンコ。ルートだけでなく、撮影交渉も自分たちで行う」という3つがある。

 この3箇条、実は初代の太川陽介と蛭子能収のコンビが旅を重ねていくなかで次第に固まっていったものだ。2007年10月に放送されたオリジナルシリーズの第1弾を見てみると、ルールや雰囲気がかなり違うのである。

 現在との違いを振り返ってみると、まずは“先を急がなかった”ことがある。この回は神奈川・横浜市から富山県・富山湾へと向かう東日本横断の旅で、初代のマドンナは中島史恵。この彼女がとんでもなかった。旅の2日目で距離を稼がなければならないにもかかわらず、バスの車中からぶどう農園が見えた途端、無性にぶどう狩りがしたくなってしまった。「あっ、ちょっと降りようよ」と言うなり、太川の制止を振り切って「もう(降車ボタン)押しちゃった……」と途中下車してしまったのである。しかも蛭子まで巻き込む始末だった。

 旅番組では当たり前の景勝地、グルメ、名物などを華麗にスルーし、ひたすらゴールを目指すのがこの番組の魅力ではある。バスの待ち時間に限り、観光を楽しむというスタンスだ。とはいえ、中島のこの途中下車は当時でもかなり衝撃であった。

 ちなみに第2弾(東京・日本橋~京都・三条大橋)や第4弾(京都・三条大橋~広島・宮島)、第8弾(京都・三条大橋~島根・出雲大社)などでも寄り道している。

タクシー利用もOKだった

“タクシー利用可”だったことも現在と異なる。第1弾では台風による土砂崩れで通行止めになっている区間でやむを得ずタクシー移動しているし、第4弾まではバスが途切れた区間はタクシー移動がありだった(第2弾で3回、第4弾でも1回利用している)。禁止になったのは第5弾からだが、この時もバス待ちの間の観光目的での利用は可だった。これも第12弾から禁止されてしまった(太川・蛭子コンビが登場しないバス旅Zでは認められている)。

 “目的地がざっくりしていた”ことも今とは違う。第一弾の場合、1日目の時点では東京湾(横浜港)から日本海(富山湾)を目指すことだけが明らかにされていたが、明確な最終目的地は曖昧にされていた。最終日の4日目になって、ようやくゴール地点を富山湾に面する氷見市に決定するというアバウトなものだったのだ。

 以上が、今の「バス旅」との違い3点になる。当時からガチンコ要素はあるものの、一般的な旅番組と同じ雰囲気が感じられたのだ。これは第1弾に限ったことではなく、第8弾くらいまでそんな“ゆるさ”が大なり小なりあったという印象がある。そしてそんなゆるさがあった初期もそれはそれで面白かったのも事実なのだ。初期の頃は、旧街道(一桁国道)沿いに旅の進路を取れば基本よかったので、難易度が低かったせいもある。観光する時間や精神的な余裕があったわけだ。

 バス以外の場面でも見どころがあったのも見逃せない。太川・蛭子コンビは旅の途中で出会った人々との“触れ合い”を大切にし、触れ合いバラエティとして成立していたのであった。なかでも第6弾、長時間のバス待ち中に休憩させてくれた青森県野辺地の松浦食堂のおばちゃんたちとのやり取りは人情味にあふれている名場面である。

 第1弾のみ、スタッフから「初日はこの辺で、2日目はこの辺で泊まりますよ」と言われていたことが、のちに歴代マドンナ20人が集まった『ローカル路線バス乗り継ぎの旅 大感謝祭』で明かされている。つまり筋書きがあったわけだ。東京・日本橋から京都・三条大橋を目指した第2弾では、途中でゴールが不可能だと悟ったスタッフから「ここだけ、ロケバスで移動しますか?」という提案があったというエピソードもある。だが、この回のマドンナだった相本久美子は、これを即却下。「今はインターネットとかも発達しているから、ズルをしてそれがバレたりしたらすぐに広まる。そうなったらすごく悔しい。だからロケバスには乗らない!」と拒否した。

 この一言でこの番組の“完全なガチ”でやろうという方向性が決まった。太川は自著『ルイルイ仕切り術:人生も会社も路線バスの旅も成功に導く40のツボ』(小学館)でこのときのことをこう振り返っている。「おそらく相本さんのそのセリフがなかったら、この番組はルールも適当なままで、辛くなったらロケバスに乗って。だから全然緊迫感も生まれず、人気も出ないままで、もう放送されていないかもしれないんです」。この第2弾はシリーズ史上最高の平均視聴率15.3%をマークし(ビデオリサーチ調べ・関東地区・世帯視聴率)、ここからバス旅の快進撃が始まったといっても過言ではない。

 さて、「バス旅Z」である。現在までの15回でその勝敗は8勝7敗とギリギリ勝ち越している状況だ。前回は時間内ゴールに失敗し“敗北”しているだけに、今回はぜひ成功して勝ち越しを2つにしたいところ。半年ぶりのバス旅で田中・羽田コンビの真骨頂が問われる旅となる。

上杉純也

デイリー新潮取材班編集

2021年6月5日掲載

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