リコカツ、北川景子と永山瑛太にとって咲と紘一はハマり役と言われる理由

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 TBSの連続ドラマ「リコカツ」(金曜午後10時)は第7話までが終わり、佳境に入る。これまでに大きなテーマが浮き彫りになった。それは「価値観が違う2人が夫婦になるにはどうしたらいいのか」である。夫婦はもともと他人。価値観がピッタリ同じであるはずがない。どの夫婦にも関わるテーマだ。

 まず物語を簡単に振り返りたい。3カ月の交際期間を経て結婚したファッション誌編集者の咲(北川景子、34)と航空自衛官の紘一(永山瑛太、38)は何もかも違った。

 食事の好み、ファッションセンス、インテリアの趣味……。なので新婚早々の第1話から衝突。お互いに「結婚は間違いだった!」と言い放ち、離婚に向けて動き始めた。

 もっとも、一番肝心であるはずの相手の人柄はお互いに嫌いではなかった。むしろ好き合っていた。咲は料理が苦手だが、紘一の好きな和食を懸命に作った。紘一は咲が傷ついた時には慰め、支えた。

 第6話でとうとう離婚届を出してしまったものの、好き合っていたから、2人で挙げた離婚理由は取るに足りないものばかり。

 咲が「本当は、私は朝ご飯はパン派なの。ずっと我慢してたんだから」と口を尖らせれば、紘一は「君の料理のレベルは最低レベルだ」と言い返した。

 大学生カップルだって、もっと深刻な別れ話をする。しかも挙げられた理由はたった5つ。一緒に暮らすうち、価値観の違いを徐々に乗り越えていた。

 それでも離婚に至ったのは紘一側の事情。紘一と咲が住む都心(どうやら目黒区内)から勤務先である空自の百里基地(茨城県小美玉市)までは約90キロメートルあり、車なら高速道路を使っても片道約1時間半かかる。これを第5話で上官が問題視した。おまけに紘一が遅刻したために後輩がケガをしてしまった。

 遠距離通勤については第1話の放送時点で自衛隊関係者が「都心では居住許可が出ない」(元百里基地勤務隊員)と指摘していた。ドラマだから細かいところには目をつむるのかと思ったら、伏線だったのだ。

 やむなく紘一は茨城県水戸市の実家に戻ることを決意。同時に咲に対して「仕事をやめて家庭に入ってもらえないか」と頼む。とはいえ、仕事を大切にしているのは咲も同じ。無理な話である。幸か不幸か、この価値観だけは一緒だった。

 咲は別居婚などの形を提案したものの、紘一が夫婦のあり方としてそれを認めなかった。紘一がこの価値観をあらため、2人は復縁するのか。それとも別れたままなのか。いよいよクライマックスに向かう。

 パートナーとの価値観の違いをどうするかは幅広い世代に共通するテーマ。なので、ラブコメ調であるものの、中高年層以上の視聴にも耐え得るドラマになっている。

 そもそも、この放送枠はスポンサーが小林製薬、洗剤や化粧品などのP&G、KIRIN、空気清浄機のAirdogだから、若者向けに特化したドラマにはなりにくい。「MIU404」(昨年7月期)や「俺の家の話」(今年1月期)など幅広い層を魅了するドラマが多い。

 このドラマのコメディ部分を支えている中心人物は言うまでもなく紘一である。「LINE」という発音がうまく出来なかったり、口調がプロレスラー・蝶野正洋(57)ばりにやたら力んだり。

 コメディは常識からズレた人間が登場することで成立する。例えばザ・ドリフターズのコントでの故・志村けんさんと加藤茶(78)である。演技巧者である瑛太のズレっぷりは見事。普段は2枚目役が中心の人とは思えない。お笑いマニアを公言するだけのことはある。

 令和の武士のような紘一は「僕」「私」「俺」などとは言わず、「自分」と称する。故・高倉健さん、故・渡哲也さん亡き後、紘一ほど「自分」がサマになるキャラクターは存在しなかったのではないか。瑛太は肉体美も誇るので、昭和のヤクザ映画全盛期なら、主演者として熱烈なラブコールを受けていたはずだ。

 北川の咲もハマり役。この人は気が強そうに見えて内面は脆いという女性役がうまい。2018年度の日本アカデミー賞で優秀助演女優賞を受けた「探偵はBARにいる3」のマリ役もそうだった。仕事に情熱を燃やす女性役も似合う。

 役者としての北川を評価しない向きもあるが、それはどうだろうか。役者にとって大切なのは古くから一に声、二に顔、三に姿とされている。この人は声が際立っていい。端正な顔ばかりが語られがちであるものの、もっと声にも注目すべきではないか。

 地味な役柄は不得手かも知れない。だが、そもそも本人が自分に合う役しか引き受けないだろう。そんな役者は少なくない。特に主演級の役者はそうだ。

 私生活で昨年9月に夫のDAIGO(43)との間に第1子が生まれたことから、このドラマへの出演を不安視や疑問視する向きもあったものの、ほかの職種と同じく、すぐに仕事復帰するのも産休を最優先するのも本人の自由であるはず。役者も1人の職業人であることに変わりはない。

 このドラマは古くからある恋愛モノの黄金パターンを臆することなくフルに活用している。すれ違いである。空前のヒットを記録したNHKのラジオドラマ「君の名は」(1952~54年)で確立されたパターンだ。このラジオドラマの場合、惹かれ合う男女がなかなか会えなかった。

 紘一と咲の場合はそばにいるものの、どちらかが精神的に歩み寄ろうとすると、必ずと言って良いほど邪魔者が現れた。すれ違った。

 2人の間に割り込んだのは紘一の上官の一ノ瀬純(田辺桃子、21)、咲の元カレで弁護士の青山貴也(高橋光臣、39)、咲が担当する作家の水無月連(白洲迅、28)である。それぞれ紘一、咲に好意を抱いている。

 純は羊の皮をかぶった狼のようだ。咲を山林の中で置き去りにしたり、咲に向かって紘一との離婚を進言したり。こんな人が身近にいたらコワイ。ところが紘一はその悪意にぜんぜん気づいていない。やはりズレている。

 純は紘一に対し、価値観が同じであることを言外にアピールし続けている。一例は手作り和食の差し入れ。ただし紘一は純に好意を抱いてはいない。結婚相手を選ぶ条件として大切なのは価値観なのか好意なのか。紘一は選択を迫られている。それは同時に見る側への問い掛けでもあるのだろう。

 紘一と咲はどうなるのか。カギとなるのは咲の母・美土里(三石琴乃、53)の健康状態ではないか。第4話で美土里は乳ガンの検診で「要精密検査」と診断された。美土里が病を得た場合、親思いの咲は激しく動揺するに違いない。そんな咲を支えるのは紘一なのか、それとも。

 シリアス部分とコメディ部分のバランスが程良い。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。1990年、スポーツニッポン新聞社入社。芸能面などを取材・執筆(放送担当)。2010年退社。週刊誌契約記者を経て、2016年、毎日新聞出版社入社。「サンデー毎日」記者、編集次長を歴任し、2019年4月に退社し独立。

デイリー新潮取材班編集

2021年6月4日掲載

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