文在寅が“大敗北”の米韓首脳会談 ワクチン対象は軍人だけ、声明には「台湾」「北の人権」

国際 韓国・北朝鮮 2021年5月24日掲載

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 5月21日の米韓首脳会談で、文在寅(ムン・ジェイン)政権が完敗した。「建国以来、最大級の外交敗戦」と韓国観察者の鈴置高史氏は言う。

「たった55万人分」と怒り爆発

鈴置:ワシントンで開いた米韓首脳会談。1月に就任したJ・バイデン(Joe Biden)大統領と文在寅大統領の初顔合わせでした。会談結果を聞いた韓国人の怒りが爆発しました。

 バイデン大統領は新型コロナのワクチンを韓国に供給すると約束しましたが、たった55万人分、韓国軍将兵の分だけだったからです。韓国の人口は約5200万人ですから1%強に過ぎません。

 韓国はワクチン不足に陥っています。おりしも開かれる米韓首脳会談で米国にねだれば良い、と韓国人は考えた。国内への供給にメドが立った米国も、海外にワクチンを供給すると発表した。

 そこで会談直前、韓国政府は「ワクチン確保」との情報をメディアに流しました。メディアも前のめりになってそれを報じたのです。中央日報の「韓国政府『バイデン政権が海外に供給するワクチン、韓国が優先交渉対象』」(5月18日、日本語版)が典型です。

「韓米首脳会談を通じ具体的な成果が出る可能性があると見ている」との政府関係者の発言を引用。さらに政府の皮算用も紹介しました。以下です。

・米国が4-6月期中に少なくとも1億回分の物量を他国と共有するとみている。このうち約1000万回分を確保すれば、11月に「集団免疫」目標を達成する可能性が高い。

 なお、見出しの「優先交渉対象」を支えるファクトは記事のどこにもありません。こんな報道に接した韓国人はすっかり「大統領が訪米さえすればワクチンを貰える」と思い込んでしまった。そこで「たった55万人分」のニュースに、政府に対する怒りが噴出したのです。

「菅は5000万人分貰ったのに」

 朝鮮日報の「バイデンのワクチンに関する約束は『米軍に接する韓国軍55万人支援』だけだった」(5月22日、韓国語版)への読者の書き込み欄は、文在寅政権に対する罵倒で溢れました。要約しつつ一部を紹介します。

・だったら、5000万の国民は米国のワクチンをいつ打てるのか?無能な文の野郎。
・バイデンは頭が良い。Quad参加を拒否した文に多くのワクチンを与えるわけにもいかない。かといって韓国企業の投資も得た状況で、手ぶらで返すわけにもいかない。だから米軍兵士と接触する韓国軍にだけワクチンを供給する。韓国軍のためのようで、結局は米軍のためだ。恩を売りながら実利を得るということだ。
・文在寅は外交の天才だ。飯をやって糞を貰った。
・菅は1億回分、5000万人分貰い、文は何も無し。何しに行ったのか。
・1週間前の発表を見れば、韓国とはワクチンを最優先で論議すると言っていたのに、青瓦台(大統領府)はまた国民を騙し、希望拷問したということか。
・政権を代えれば(ワクチンを)貰える。(米国が)左派政権のどこを信じて供給するだろうか。政権交代が答えだ。

 「韓国企業の投資も得た」とはサムスン電子、現代自動車、SKイノベーション、LG化学など韓国の大手企業がこぞって米国で投資すると、5月21日に韓国政府が発表したことを指します。各社の計画を足すと、投資金額は日本円換算で4兆円にのぼります。もちろんワクチン獲得に向けた掩護射撃です。

 菅義偉首相の訪米に伴い、ファイザー製ワクチンをどれだけ取得できたか、日本政府は発表していません。が、韓国では5000万人分などと報じられています。

 また、「希望拷問」とは「実現しもしないことを政府が約束し、結局は国民に苦痛を与える」ことを意味する韓国独特の言い回しです。

ワクチン食い逃げは許さない

――韓国政府は「ワクチンスワップ」を打診していたはずです。

鈴置:『韓国へのワクチン供給は後回し』と公言した米国務省 バイデンがQuadから逃げ回る文在寅にお灸」でも説明しましたが、「いつか返すから今すぐワクチンをくれ」というムシのいい要求です。

 これに対し米国務省は「Quadに参加しない韓国は後回し」と公然と拒絶しました。すると韓国政府は「反中的な部分を除いてQuadに片足だけ参加するからワクチンをくれ」と言い出したのです。

――「Quad片足参加」を米国は認めなかったのですか?

鈴置:そんな都合のいい、韓国のわがままは許しませんでした。聯合ニュースが5月18日に、「ホワイトハウスのアジア皇帝」と呼ばれるK・キャンベル(Kurt Campbell)インド太平洋調整官に書面インタビューしました。

U.S. will build on Singapore agreement with N. Korea: Campbell」(5月18日、英語版)によると、キャンベル調整官は韓国のQuad参加に関し、以下のように語りました。

・While at this time there are no plans to expand the Quad, our shared values of support for a free, prosperous Indo-Pacific are certainly embraced by many other regional partners and we believe there will be ways to continue to expand regional cooperation. That includes cooperation with the ROK, ASEAN, and other regional partners.

「今のところ、Quadを拡大するつもりはない」と韓国を締め出したのです。当然の仕打ちです。中国の顔色をうかがいQuadから逃げ回っておいて、ワクチンが欲しくなると「入ってもいい」とすり寄って来る。それも「反中部分は除く」という「いいとこ取り」方式で。一種の食い逃げです。

「弱腰韓国」はQuadに入れない

――ワシントンには、韓国に対する冷ややかな空気が広がっているのですね。

鈴置:それを率直に語ったのがシンクタンク、ランド研究所のB・ベネット(Bruce Bennett)客員研究員です。同氏は韓国を120回も訪問した朝鮮半島専門家。韓国メディア、イーデイリーとの電話インタビューで「Quad締め出し」の理由を次のように語りました。

文はバイデンと歩調を合わせ国防を強化してこそ、北朝鮮との対話の場が生まれる」(5月18日、韓国語)から引用します。

・韓国はQuadのオブザーバーはともかく、メンバーにはなれない。コロナの感染が広がった時、韓国は中国人の入国を禁止すれば、中国から圧迫されると考え、そうしなかったと見られている。
 
 韓国は中国に弱腰。そんな国をメンバーに加えてQuadを弱体化するつもりはない――と言い放ったのです。

 文在寅政権の掲げる北朝鮮との「平和共存」政策に関しても、ベネット氏はB・オバマ(Barack Obama)政権の「戦略的忍耐」と同じ――つまり、口では非核化を唱えても実際は何もしない――と批判しました。

 ベネット氏は在韓米軍のTHAAD(地上配備型ミサイル迎撃システム)基地を取り囲んで資材の搬入を阻止するデモ隊を、文在寅政権が取り締まらないことも、口を極めて非難しました。

 イーデイリーの別の記事「ワクチン不足でお尻に火のついた韓国…米ワクチンの対価に何を出すか知恵を絞れ」(5月18日、韓国語)が伝えました。

 平時ならまだしも、中国との対決が始まった時に同盟国の義務も果たさず、都合のいい要求ばかりしてくる。やりたい放題の文在寅政権に、米国の専門家もついに堪忍袋の緒を切ったのです。

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