SBIグループ「北尾吉孝」社長、コロナで注目されるサプリ工場を乗っ取り疑惑

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 かつてソフトバンクの孫正義氏に右腕として仕え、現在は一国の総理に助言まで行うSBIグループ創業者の北尾吉孝氏(70)。「地銀の救世主」とも呼ばれる氏に、地銀を利用した“乗っ取り”工作の疑いが浮上した。狙われたのはコロナ禍で注目を集めるサプリで……。

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 仮差押決定――。

 サプリメントの製造を行う東京都千代田区のネオファーマジャパン株式会社(ネオ社)に、悪夢のような報せがもたらされたのは、今年3月4日のことだった。

 仮差押えを申し立てたのは、SBIファーマ株式会社。あのSBIホールディングス(HD)の子会社だ。SBIファーマの代表取締役を務めるのは、グループの創業者であり、HDの社長でもある北尾吉孝氏。疲弊する地方銀行再編の旗振り役を自ら任じ、近頃は「地銀の救世主」と崇められ、菅義偉総理の“影のブレイン”などと呼ばれてもいる。

 そんな大人物が、仮差押えとは穏やかでないが、

「北尾さんには、ここまでやるかと驚き、心底呆れてしまいました」

 そう語るのは、当のネオファーマジャパンの代表取締役である河田聡史氏だ。

「仮差押えを申し立てられたのは、静岡県袋井市にある私どもの袋井工場。サプリに使う『5―ALA(ファイブアラ)』という原料を作っている工場です。SBIファーマは購入した原料が引き渡されなかったと主張していますが、完全な言いがかり。5―ALAを工場ごと手に入れるため、一方的に申し立てに及んだとしか思えません」(同)

 北尾氏が、そうまでして手に入れたかった「5―ALA」とは、一体いかなるものなのか。

 5―ALAを使ったサプリは、コロナ禍で密かに注目を集めるようになった。きっかけは、昨年10月の長崎大学の研究チームによる発表だった。5―ALAが新型コロナウイルスの増殖抑制に効果があり、臨床研究を始めると発表したのだ。

 研究チームを率いる長崎大学熱帯医学・グローバルヘルス研究科の北潔教授によれば、

「首都圏のある病院で、重症のコロナ患者に5―ALAサプリを投与したところ、数日で回復したという報告があります。これは臨床研究で行われたものではありませんが、理論上は十分に起こり得る」

 コロナに怯える人々には俄かには信じられまいが、

「5―ALAは特別な物質ではなく、あらゆる生物の体内に備わっているアミノ酸の一種。この5―ALAから生成される成分にはDNAやRNAの複製などを阻害する効果があり、この効果を利用することで、ウイルスの遺伝子が複製されるのも防ぐことができるのです」(同)

 ただし人間の場合、17歳くらいを境に5―ALAの生成量は減少するといい、

「これを補い、5―ALAの濃度を一定以上に保つことができれば、新型コロナウイルスや他の感染症にかかりにくくすることができると考えられます。実際にマラリアの治療を試みており、それを可能にするのが5―ALAサプリメントだというわけです。このサプリメントは老化防止の効用もあって、私の97歳の知人も飲み始めてから明らかに肌ツヤが良くなった」(同)

 今年2月には、新型コロナ患者に5―ALAサプリを投与する臨床研究が開始。

「かつて、5―ALAの合成には非常にお金がかかっていましたが、ネオファーマジャパンの袋井工場のおかげでサプリメントにも利用できるようになりました。大量の5―ALAを安定して生産できるのは、世界でもこの工場だけです」(同)

 臨床研究がうまくいけば、ワクチンも特効薬もいらない“夢のサプリ”となるやもしれぬ5―ALA。北尾氏が仮差押えを申し立てた袋井工場は、実はコロナ禍で莫大な利益を生む可能性を秘めた“金のなる木”だったのだ。

 SBIファーマによる今回の仮差押えの背景を読み解くには、時代をさかのぼる必要がある。北尾氏は、10年以上前から、この5―ALAに執着してきたのである。

“工場乗っ取り”の序章

 北尾氏は、長崎大学がコロナ抑制の効果を発表した1カ月後の昨年11月、一冊の本を上梓している。

 タイトルは『ALA(アラ)が創る未来』。

 この本によれば、北尾氏が5―ALA関連事業に乗り出したのは2008年。その際に設立したのが、SBIファーマであった。

〈このALA事業を続けることで、人類社会に何らかの「遺産」を残すことを自らの天命の一つとして肝に銘じ、研鑽を重ねている〉

“公の使命”を強調する北尾氏だが、袋井工場に固執するのは、それだけが理由ではない。

 河田氏によれば、

「もともと袋井工場は、ネオ社の親会社とSBIファーマの共同出資で購入し、運営する予定だった。もちろん、北尾さんも乗り気で、16年には契約書にサインもしました」

 しかしその契約はSBI側の事情で、土壇場で破棄された。一説には、SBIの資金繰りがつかなかったともいわれる。

 とはいえ、北尾氏は5―ALA事業自体から撤退したわけではない。SBIファーマは、その後もネオ社から原料を購入してサプリの製造を続けてきたのだ。

 19年には、SBIファーマは、ネオ社にこんな申し出をしている。

 河田氏が続ける。

「5―ALAを長期間にわたり、安定的に供給してくれる保証をもらいたいというのです。うちは、工場買収以来140億円もの投資をしてきましたから、SBIファーマがその半額に当たる70億円を7年間に分けて支払うという契約を結んだ上で、長期安定供給を約束しました」(同)

 北尾氏は「ネオファーマに契約を切られれば5―ALAは手に入らなくなる」といった不安に苛まれていたのかもしれない。

 袋井工場への未練を捨てきれない北尾氏に、またとない“チャンス”が訪れたのは昨年のこと。折しも、5―ALAのコロナに対する効果が注目され始めた時期だった。

 ネオ社の親会社社長が不正融資の疑いで資産を凍結され、あおりでネオ社の資金繰りも悪化。昨年11月、河田氏らは、SBIファーマに支援を要請することになったのだ。

 民事再生のスポンサーになってもらう案なども出たというが折り合いが付かず、SBIファーマに5―ALAを前倒しして購入してもらう形で、5億円あまりの資金を調達することとなったという。

 ところが、これが「仮差押え」の引き金となる。

「5億円の資金は3回の取引に分けて支払われることになっていました。ただ、昨年11月27日に支払われるはずだった最後の2億円ほどは入金されず、年明けになって契約解除とこれまでに支払われた約3億円の返金が先方の代理人弁護士から突如請求された。製品は納入済みでしたので、先方の主張は全く納得できず、こちらも弁護士を通じて説明を試みましたが、3月4日に突然、工場が仮差押えを受けることになったのです」(同)

 しかし、この仮差押えは“工場乗っ取り”の序章に過ぎなかった。

「袋井工場には、地元の清水銀行から受けた融資約16億円の担保として抵当権が設定されていたのです。仮差押えによって、銀行からはこの16億円を即座に返済するよう求められることになった」(同)

 多くの場合、銀行融資には、抵当権がついた不動産に仮差押えなどがなされた場合、即座に全額の返済を求めることができる約款が付いている。

「仮差押えは不当なものですから、すぐに清水銀行東京支店に連絡を取りました。ですが、支店長も担当者も“出張中”“研修中”と言うばかりで、一切こちらの事情を聞こうとしませんでした」(同)

法律に抵触する可能性も

 清水銀行側の不可解な対応の理由はすぐに判明する。

 仮差押えからわずか8日後の3月12日、清水銀行が有していた約16億円の債権が、SBIHDの子会社、SBIインキュベーションに譲渡されてしまったのだ。

 つまりSBIファーマは、抵当権のついた工場に仮差押えを申し立て、清水銀行の債権を不良債権に仕立て上げた。そうして“不良債権処理”という大義を作り、自らのグループ会社に譲渡させた――。そう見られているのである。

 河田氏は、こう訴える。

「SBIファーマと長期安定供給の契約を結んでからまだ2年足らず。だから先方は約束した70億円のうち、まだ20億円も支払っていません。16億円の債権を買い取ったとしても、それで140億円の工場が手に入るなら破格でしょう」

 ネオファーマの代理人である大塚和成弁護士は、別の問題も指摘する。

「そもそも銀行の不良債権は弁護士や弁護士法人、法務省の許可を得た業者しか管理・回収ができないはず。SBIインキュベーションはこの許可を得ておらず、法律に抵触する可能性があります。また、債務者の事情を一切考慮せず、許可業者以外に債権譲渡した銀行の見識も問われます」

 債権譲渡を受けたこと自体が、法律に違反しかねない行為だというのだ。

 SBIファーマに一連の経緯を尋ねると、

「契約解除はネオファーマが原料を納品しなかったからです。彼らが用意した原料は、あくまで海外向けの品質証明を取得したもので、何回催告しても日本向けの品質証明を取得したものが納品されなかった。親会社の信用不安もあり、ちゃんと原料も用意できない状況だったので、債務不履行解除を行いました。また、この仮差押えにより、銀行にご迷惑がかからないよう、16億円の債権を満額で買い取らせて頂きました。債権回収は『業として』行っていないので、法に抵触するものではありません」

 しかし、河田氏は、

「日本向けの品質証明がついた原料の在庫を切らしていたのは事実ですが、当初から先方もそれは認識していました。基本的に製品は同一なので日本向けの証明に必要な分析項目を追加するか、あるいは新たに生産した日本向け製品と差し替えることで合意し、うちの倉庫に保管することで引き渡しも完了していました。これについてはSBIファーマの担当者とやり取りしたメールも残っている」

 一方、躊躇なく“不良債権”を譲り渡した清水銀行の岩山靖宏頭取は、

「(債権譲渡は)SBIからお話があったもので、法的なルールに基づいた債権譲渡だったと認識しています。確かに私どもも関与した形になっていますが、SBIさんとネオファーマさんに事実確認をされた方がよいかと思います」

 他人事にも聞こえるが、金融関係者によれば、

「清水銀行は北尾氏の唱える『地銀再編』のもと、昨年2月にSBIHDと資本・業務提携を締結している。つまり、SBIは清水銀行にとっては頭の上がらない存在なんです。債権を買い取らせてくれ、ましてや満額でと言われれば断ることはできないでしょうね」

 これでは地銀の生殺与奪の権を握る立場を使って、己が願望を叶えたと言われても仕方あるまい。地銀の救世主の美名やいずこ。「不正に乗っ取られた」と訴える側にしてみれば、つくづく救いのない話ではないか。

週刊新潮 2021年5月6日・13日号掲載

特集「地銀の生殺与奪権を濫用 『SBI北尾社長』がコロナ抑制で期待の『サプリ工場』を不正乗っ取り疑惑」より

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