東大大学院卒のスパイス料理研究家「印度カリー子」が売れ残った食材をカレーにする理由

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おつとめ品コーナーの食材を連れ帰り…

 東大大学院修士課程を卒業し、スパイス料理研究家として活動する印度カリー子さん。おつとめ品コーナーで出会うさまざまな食材たちを使った、真の「調理」とは?
 
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 萎びてきた野菜、熟れすぎた果実、賞味期限間近で新鮮さを失い安くなった肉や魚。全ての食材は生き物であり食べごろを逃すと鮮度を失い、スーパーではおつとめ品として格安コーナーに移動させられる。自宅の近くのスーパーでは加工品であれば10%程度の値引きであるが、足の早い葉野菜や肉や魚などは半額まで価格が下げられていることも多い。

 売れ残ったら廃棄されてしまうような食材たち。私はよくおつとめ品コーナーをチェックして、これらを買い集めて家に連れて帰ってカレーにする。

 野菜がまだ元気なときはスパイスは控えめにして野菜の味わいを生かし、肉や魚などの鮮度が落ちている場合は、臭みが出ないようにスパイスでマリネしてから調理したり、香りの強いスパイスを調合したりする。バラバラだった素材とスパイスがひとつのフライパンの中で合わさっていく過程は心を躍らせ、完成間近に立ち上る香りは食欲を刺激する。そうして完成したカレーを食べて一口目で「おいしい……!」とつい声がこぼれてしまったとき、私は心の中でガッツポーズを決めるのである。

見向きもされない食材をカレーにしたい

 もちろん他の料理と同様に、新鮮な食材だったらそこまであれこれ思考しなくても美味しいカレーは作れる。しかし、香りが豊かなスパイスをたくさん使って作るカレーは素材が命のサラダや和食と異なり、必ずしも食材の鮮度が良くある必要はない。インドの現地のマーケットでは、日本のスーパー級のそのままでも美味しい野菜や臭みの全くない肉や魚などを見たことがないからである。現地のマーケットにあるような素材でもほっぺたが落ちるくらい美味しいカレーができるのだから、日本のスーパーで売られている鮮度が落ちた素材なんてまだまだ余裕なはず、と思ってしまうのである。

 鮮度が落ちてそのままでは美味しくなくなってしまった野菜や、塩焼きにするだけでは臭くて食べられないような肉や魚を活かし、スパイスと知恵を掛け合わせてカレーを作るときこそ、私は真に「調理」をしているような気持ちになる。そして食材の状態や特徴に合わせてベストなスパイスを合わせてカレーを仕上げていく調理工程は、萎びてきた素材にスパイスというドレスを着せて美しくするようにも感じる。

 使いやすいもの、美しいもの、完璧なものだけを買い集めて料理をして美味しいカレーができたとしても、私の調理の喜びは真に満足させられるわけではなく、むしろ皆が見向きもしないような食材たちを(1)安く(2)無駄なく(3)美味しいカレーに作り替えた時こそ、本当にうれしい買い物ができたと実感するのである。

印度カリー子
スパイス料理研究家・東大大学院修士課程卒。テレビ・WEB・雑誌などさまざまなメディアで活躍中。著書多数。

2021年4月16日掲載

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