河野大臣「ワクチン忙殺」でホッとする人々 日本のM&A仲介企業はここがおかしい

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高齢経営者に狙いを定めて

 M&A仲介企業は、その名のとおり売り手と買い手を仲介(マッチング)することを主眼とする企業で、代表格は日本M&Aセンター、M&Aキャピタルパートナーズ、ストライクの上場3社である。トップを走る日本M&Aセンターは、2010年3月期から20年3月期まで10期連続の増収増益を果たした。21年3月期の第3四半期においても売上高284億円(前年同期比約109%)、経常利益141億円(同約109%)と、コロナ禍においても過去最高の売上高、経常利益を更新した。通期決算でも売上高、経常利益ともに過去最高をたたきだす可能性が高い。

 飛ぶ鳥を落とす勢いで急成長するM&A仲介企業の業績を支えているのが「2025問題」、すなわち事業承継ニーズだ。企業は後継者不在に悩む高齢経営者に狙いを定め、全国各地で事業承継セミナーを開催した。コロナ禍においては、オンラインセミナーを連打して顧客獲得に成功し、日本M&Aセンターの新規受託件数は過去最高水準に達している。

 そんな過熱状態のM&A仲介市場に冷や水を浴びせたのが、河野大臣の「M&A仲介は利益相反になる可能性がある」という指摘だった。河野大臣は年明けの1月6日にもみずほ証券のセミナーで、

「中小企業のM&Aの際に仲介業者が買い手・売り手の両方から手数料を取るのは利益相反だ。中小企業庁に働きかけてこうした慣習を変えたい」

 と発言している。M&A仲介企業の幹部たちは怒り心頭ながらも、「次は何を言い出すつもりか」と、冷や汗を流すことにもなった。

 だが、河野発言はここでストップする。1月18日付でワクチン担当相を兼任することになったからだ。以降、大臣としての時間とエネルギーの大半は、国民的関心の高いコロナワクチンに振り向けられることになった。

 M&A仲介企業の幹部らが、「彼には、このままワクチンの方に集中していてもらいたい。もう、こっちには構わないでほしい」と本音を語るのはこのためで、もしワクチン接種にメドがつけば、河野大臣は再びM&A仲介の問題点について発言を再開するかもしれない、という危機感がある。

 ワクチンは医療従事者が優先的に接種し、4月12日からは全国で65歳以上の高齢者向け接種を開始する。河野大臣は6月中にも全国民分のワクチン確保を目指すとしており、コロナに脅えながら日常生活を送る多くの国民にとっては朗報だ。

 だが、ワクチン確保と接種計画がスムーズに進行することを素直に喜べない人たちがいることも、また事実である。M&Aアドバイザリー業界は「ワクチン後」、議論百出となるに違いない。

デイリー新潮取材班

2021年3月19日掲載

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