河野大臣「ワクチン忙殺」でホッとする人々 日本のM&A仲介企業はここがおかしい

国内 社会

  • ブックマーク

Advertisement

抜群の発言力

「彼には、このままワクチンの方に集中していてもらいたい。もう、こっちには構わないでほしい」

 こう語るのは、M&A仲介企業大手の幹部である。「彼」とは、目下コロナワクチンの全国民接種に向けて全力疾走中の河野太郎行政改革担当相のことだ。

 今年1月、菅義偉首相からコロナワクチンの政府全体の調整を任された河野大臣は、以来、ワクチン問題でテレビにその姿を見せない日はないほど東奔西走している。3月12日の記者会見では6月分までの調達スケジュールを発表し、累計1億回分を超えるワクチンを確保したと説明した。

 河野大臣は、政府内・組織内の調整よりも自分の見解を大事にする。抜群の発言力が特徴だ。

 ワクチン担当相に就任するやいなや、ワクチン接種スケジュールを報じたNHKに対して個人のツイッターで「デタラメだぞ」と噛みつき、さっそく物議を醸した。現職の官房副長官が示した接種スケジュールについても、記者会見の場で「修正をさせていただきます」と独断で踏み込み、「政府内不一致」「事前の調整不足」と批判されたが、本人は“どこ吹く風”で、さして気にする様子もない。

 そうした姿勢が国民からも支持され、今では「次期総理」の筆頭格に躍り出ているわけだが、ワクチン問題に奔走する間、ひそかに安堵しているのがM&A仲介企業の幹部たちだ。

「両手取引」をしている

 実はここ数ヵ月、M&Aアドバイザリー業界では「河野発言」に注目が集まっていた。

 きっかけは、ワクチン担当相に就任する1ヵ月前の12月18日、河野大臣が個人ブログに投稿した内容だ。「中小企業のM&A」と題したそれは、

《近年、中小企業の経営者が高齢化し、70歳以上の経営者が245万人いると推計され、そのうち127万人は後継者が未定とされています》

 という書き出しで始まっていた。これは中小企業庁が近年、警鐘を鳴らす「2025問題」のことである。2025年には70歳以上の経営者が245万人に達し、うち127万人が後継者不在の状態に置かれる。こうした問題を受け、河野大臣は、

《M&Aなどで第三者に事業継承する可能性のある中小企業は60万社程度あると推計されています》

 とブログで続ける。ここまでは誰も異論を挟まない、日本が直面している重要課題の摘出だ。問題はここから。ブログで次のように指摘した。

《こうした中小企業のM&Aを仲介する専門業者の数も2000年代から拡大し、現在、300社程度が活動しています。しかし、こうした中には売り手と買い手の双方から手数料を取ってM&Aを仲介する業者がいます。(中略)

 双方から手数料をとる仲介は、利益相反になる可能性があることを中小企業庁も指摘しています》

 売り手と買い手の双方から手数料を取ることが、なぜ利益相反になる可能性があるのか。ベテラン経済記者が説明する。

「M&A市場が成熟した欧米などでは、一般的なM&Aアドバイザーは売り手もしくは買い手どちらかにFA(フィナンシャルアドバイザー)としてつきます。もし売り手側につけば、売る企業(の株式の価値)が正当に評価してもらえるよう主張します。買い手側が不当に安い価格をつけてきたら徹底的に反論し、売り手側の経営者の納得がいくまで交渉を続けます。

 逆に買い手側についたFAは、売り手側の企業が不当に値段をつり上げてきたり、企業価値が下がる社内要因を隠していたりすれば、調査によってそれを見抜き、買い手が正当な価格で買収できるよう交渉をするのです。

 そのためFA同士による交渉は破談になることも多いのですが、それでも売り手と買い手、利害が対立する両者にそれぞれFAがつくことで、買収交渉の客観性、公平性は保たれます。これは、裁判において弁護士が原告と被告どちらかの弁護人にしかなれないのと理屈は同じ。弁護士が、もし依頼者と利害が対立する側の法律相談を受ければ、明らかな利益相反が起きますから」

 日本でも大手証券会社や大手金融機関、監査法人系コンサルなどグローバルスタンダードでM&Aアドバイザリーをやっている企業は、売り手か買い手、どちらか一方のFAに徹してきた。そんな中で、堂々と両方と契約を結び、双方から手数料を取る「両手取引」をやってきたのが、河野大臣が指摘したM&A仲介企業だ。

次ページ:高齢経営者に狙いを定めて

前へ 1 2 次へ

[1/2ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。