“令和の怪物” 佐々木朗希が実戦デビュー アマ時代よりこんなに進化した!

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ストレートだけで圧倒

 続いて、ビシエドに対しては、高めのボールでファウルを打たせて追い込み、最後は外角いっぱいの152キロで見逃し三振。日本での5年間で652安打を放ち、18年には首位打者を獲得した強打者をストレートだけで圧倒して見せた。

 トータルのピッチングを通じて感じたことは、まずストレートの質、精度が明らかに向上しているということだ。阿部の打席ではボールが先行し、ビシエドの打席でも少しボールは高かったものの、大きく外れるようなボールは見られなかった。

 また、スピードも149キロ~153キロと、球速帯が安定して高いというのは、得難い武器である。変化球に関してはスライダー1球だけで、判断する材料が少なすぎるが、一軍の中軸を相手にストレートで押し切ることができたのは大きな自信になったはずである。

 フォームに関しては、昨年までの投げ方からマイナーチェンジしたと報じられていたが、変わったのはテイクバックの部分だ。以前は肘から先に高く上げていく形だったものを、ボールを持つ手を早めに上げるようになっている。

 山本由伸(オリックス)も高校からプロに入って同じような形に変えているが、肘をしならせる局面が短くなり、それだけ負担も少なくなっているように見える。160キロを超えるスピードに体が耐えるために、必要な修正だったのではないだろうか。左足を大きく上げても姿勢が崩れず、踏み出した足がぶれることなくバランス良く腕を振れるという長所は変わっておらず、フォームの面からは不安材料は見られなかった。

長いイニングは先か

 末恐ろしいのが、まだまだ余力を残しているように感じさせたところだ。投げ終わった後のフィニッシュの姿勢もどちらかというとボールをまとめようとしているように見え、高校時代に比べて少しおとなしい印象を受けた。

 初実戦ということで緊張感もあり、まずはストライクをしっかり投げることを意識した結果ではないだろうか。ただ、そんな状態でもアベレージで150キロを超えるストレートを投げられるというのは、やはり普通の才能ではない。完全な大人の体になって筋力がアップし、体の不安なく腕を思い切り振った時には誰も見たことのないようなボールを投げることも十分に考えられるだろう。

 昨年1年間、佐々木は一軍に帯同しながら体力強化に取り組み、一度も実戦で投げなかったという異例の調整を続けたことに対して、批判的な声も少なからずある。だが、持っている才能の大きさを考えるとこれくらい慎重になることは必要なことではないか。

 今後もしばらくはトレーニングや調整が中心で、長いイニングを投げる機会などは、先になる可能性が高そうだが、本人も首脳陣もファンも我慢した分だけ、咲かせる花は大きなものとなるだろう。

西尾典文(にしお・のりふみ)
野球ライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

デイリー新潮取材班編集

2021年3月13日掲載

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