号泣する女性客の隣で観た西野亮廣『えんとつ町のプペル』 宮崎駿の背中は遠い…

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現在公開中『えんとつ町のプペル』★☆☆☆☆(星1つ)

 一部では『鬼滅の刃』以上に注目を集めている作品である。その“話題性”とは裏腹に、実際に観たという人は、意外と(?)少ないのではないか。かくいう私もその一人である。ということで、1月某日の15時すぎ、東京のTOHOシネマズ上野を訪れた。

 映画館のロビーは閑散としていた。しかしプペルのスクリーンに入ると、ほぼほぼ満席状態。さすがは話題作である。隣に座った女性はスーツケースを抱えていた。

 ……そして上映中、彼女はずっと泣いていた。

 これが噂に聞く“信者”だったのか?スーツケースの中身は、サロン会員が公認で転売できるという「前売チケットと台本で3000円」が詰まっていたのか?以下は、号泣する客の隣でノート片手にプペった拙評である。

えんとつ町のコピペ感

「えんとつ町は煙突だらけ。
そこかしこから煙が上がり、頭の上はモックモク。
黒い煙でモックモク。
えんとつ町に住む人は、青い空を知りません。輝く星を知りません」

 えんとつの向こうの世界をくり返し、紙芝居で語るブルーノは、ホラ吹きだと村八分になってしまう。でも煙の向こうには父さんが言ったように、青い空、星空があるんだ! それを明らかにするため息子のルビッチは旅に出る。城を発見し父親が嘘つきじゃなかったことを証明した、あの『天空の城ラピュタ』(1986)のパズーみたいに!

 渋谷駅前のスクランブル交差点だったり大阪の道頓堀だったりををベースにしたような街角が散見される。アジアを基本に無国籍風に仕上げた町の景観は、酸性雨が降りつづける『ブレードランナー』(1982)が描いた2019年11月のロサンゼルスから影響を受けたのか。赤い提灯があちこちを飾っているのは、『千と千尋の神隠し』(2001)冒頭、ひしめき合う屋台の軒に吊るされていた提灯を、思い出させる……。

 あちこちの映画から設定や世界観をコピペしてきたような『えんとつ町のプペル』の原案・脚本・製作総指揮をつとめたのはごぞんじ、「芸人で絵本作家で、日本最大のオンラインサロンを運営している」西野亮廣氏だ。

 西野氏はサロンメンバー限定で、『えんとつ町のプペル』製作の過程を公開するプロジェクトを提案した。そのビジネスの革新性をこう語っている。

〈宮崎駿さんの映画がどんなに面白くっても僕らは、1800円しか払えないじゃないですか? チケット代しか払えないじゃないですか? でも宮崎駿さんが映画を作っている過程を一枚のサブスクで、ずっと定点カメラで覗けますみたいなサブスクがあったとしたら僕……絶対入るんですね〉

 そして孫正義の「プロセス・エコノミー」という概念を借りて、彼はこう言う。

〈で、それが一万人いたら、僕みたいな人間が一万人いたら……月一億円じゃないですか。で、それが毎月入るわけじゃないですか? そうすると完成品よりプロセスの方が明らか、利益率が高い〉(2020年12月19日「NewsPicks」YouTubeチャンネルでの発言より)

 まともな人間はここで、総ツッコミするはずだ。それはともかく、『えんとつ町のプペル』を見ると彼が、宮崎駿を多分に意識していることは分かる。

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