これが“大人の事情”なのか…あまりに不可解なセンバツ出場校の選出理由

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 第93回選抜高校野球(3月19日開幕)の出場32校が今月29日の選抜選考委員会で決定した。出場校は、主として前年秋の地区大会の成績をもとに選考され、地域制や試合内容など、さまざまな理由でふるいにかけられるため、なぜあのチームが選ばれたのか、逆になぜ落ちたのかと驚くような結果も少なくない。過去に話題になった、まさかの出場決定校と落選校はどんなものがあったのか――。

 県大会で敗退し、地区大会に出ていなかったのに、大逆転で選ばれたのが、1984年の徳島商だ。徳島県大会準決勝で池田に6対7で敗れ、四国大会出場を逃した徳島商は、この時点でセンバツは絶望になったはずだった。

 ところが、県大会を制し、四国大会でも4強入りした池田が、選考直前の1月17日、3年生部員の無免許運転で前年10月に警告処分(国体も出場取り消し)を受けた一件が再び問題視され、推薦辞退に追い込まれたことから、「池田と互角の力を持つチーム」として急浮上する。

 県2位校の富岡西が四国大会1回戦で大敗したため、選考では徳島商と高知県2位の伊野商が4つ目のイスを争うことになり、チームの状態が整った10月以降の勝率などをもとに「総合力で徳島商が上」と判断された。幸運な“繰り上げ出場”を機に、徳島商は4季連続で甲子園に出場している。

 同年は近畿地区でも、ベスト16で敗退した大阪の進学校・三国丘が、4強の近大付を差し置いて選ばれる“サプライズ”があった。

 近大付は大阪府大会、近畿大会のいずれも優勝校のPL学園に大敗したことがマイナス要因となり、三国丘は、府大会決勝でPLをボークの1失点だけに抑えたエース・松田賢太郎が「PLの桑田真澄に次ぐ好投手」と評価されたことが決め手になった。「対PL戦」括りでの比較は、確かに三国丘が圧倒的に有利だが、近畿大会の結果を考えると、“文武両道校”を優遇した印象も否めなかった。

 その後も87年に松山北、91年に奈良の両進学校が、いずれも地区大会初戦で敗退し、当落選上圏外と思われたのに、逆転で選ばれた事例は、現在の「21世紀枠」に相通じるものがある。また、好投手を持つチームが上位進出校と入れ替わった例も、09年に東北大会準決勝敗退で選ばれた菊池雄星の花巻東など多数に上る。

 地区大会で4強入りしたのに、1勝もしていないチームに取って代わられ、まさかの落選となったのが、88年の江の川(現石見智翠館)だ。超高校級捕手・谷繫元信(元中日)を擁する江の川は、中国大会準決勝で西条農に2対3と惜敗。西条農は決勝で広島工に1対4で敗れたが、江の川とともに4強入りした倉吉東は、広島工に1対11と大敗していた。

 これなら、3校目は江の川でもおかしくないところだが、「きびきびとした試合ぶり」という理由で、進学校の倉吉東が優先された。それだけならまだしも、江の川は、準々決勝で西条農に1対3で敗れ、1勝もしていない宇部商に4つ目のイスを奪われてしまう。

 好投手・木村真樹の存在が決め手になったとされるが、県外出身選手がほとんどで、“外国人部隊”と呼ばれた江の川を選びたくなかったと思われても仕方がない。当時悔しい思いをした谷繫も「大人の事情を初めて突きつけられた感じです」と回想している。

 地元・大阪代表ゼロの事態を回避すべく、1回戦敗退ながら、甲子園切符を手にしたのが、03年の近大付だ。同年は大阪代表の3校が揃って1回戦で敗退。その中で、大阪1位校の近大付は、2点差の惜敗だったことから、準々決勝敗退4校と同列扱いになり、地域性に加えて、「センター返しのできる粘り強い打線」という、こじつけ気味の理由で、最後の6校目に滑り込んだ。19年前に不運な落選に泣いた近大付だが、今度は“センター返し枠”で幸運が舞い降りた。

 同年は北信越でも、地区大会わずか1勝のチームが3勝した準優勝校を差し置いて選出される大逆転劇が起きた。

 福井工大福井は、県1位校ながら、準々決勝で遊学館に1対2と惜敗。これに対し、県3位の福井商は決勝まで勝ち進み、遊学館に3対10と大敗したものの、「報知高校野球」でもセンバツは「確定的」と報じられていた。

 ところが、「県大会の直接対決を制している」という理由から、なんと、軍配は福井工大福井に。エース・藤井宏海(元ロッテ)が防御率0.68と安定していたことも評価され、ここでも“好投手好み”が反映されている。

 03年の近大付以上に不思議な理由で選ばれたのが、09年の開星だ。中国大会準決勝で南陽工に1対4で敗れた開星は、南陽工が準優勝に終わったことから、準決勝で優勝校の倉敷工に延長12回の1対2と善戦した鳥取城北の後塵を拝すると思われた。だが、1回戦、準々決勝のいずれもコールド勝ちという結果から、「総合力で鳥取城北を上回る」とされた。

 さらに四国大会4強の尽誠学園との比較では、「基本に忠実な腰を落とした守備」で尽誠を上回っているとされ、中・四国最後の5枠目を射止めた。コアなファンは“腰を落とした守備枠”と呼んでいる。

 今年は近畿地区最後の6枠目をめぐり、天理、智弁和歌山が横一線状態とあって、ネット上でもファンの間で激論が交わされていたが、結局、阪神などで活躍した中村良二監督が率いる天理が選出された。野球ファンには智弁和歌山を推す声が大きかっただけに、“阪神枠”と揶揄されないよう、天理には選抜での奮闘を期待したいところだ。

久保田龍雄(くぼた・たつお)
1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。最新刊は電子書籍「プロ野球B級ニュース事件簿2020」上・下巻(野球文明叢書)

週刊新潮WEB取材班編集

2021年2月1日掲載

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