拉致事件映画「めぐみへの誓い」監督 横田早紀江さんに「ご覧になりますか」と尋ねると

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 北朝鮮による日本人拉致事件が映画になる。描かれるのは被害者の一人、横田めぐみさんと、救出活動に携わる家族や支援者たちの姿だ。題して「めぐみへの誓い」。来月19日からの公開を控え、監督の野伏(のぶし)翔氏(69)に舞台裏を聞いた。

「製作のきっかけは、2002年に5人の拉致被害者が帰国したことでした。ところがあれから20年近く何の進展もない。いまこそ事件に関わった人々の姿を映像に残さなければ、と考えたのです」

 自身も支援活動に加わっていた野伏氏だが、映画化に向けて02年に帰国した曽我ひとみさん(61)や地村保志さん(65)の他、脱北者の話を聞いたり、関連資料を読み込んだという。

「有本恵子さんの父・明弘さん(92)からは“我々が辛くて見られないような作品でなければ意味がない”と言って背中を押されました。ですから、再現ドキュメントとして事件の惨さや理不尽さを描くに留まらず、健気に、かつ逞しく生きる市井の人々の愛や意志の強さも描こうと思ったんです」

 製作費は寄付とクラウドファンディングで募ったが、

「昨年末までに約7千万円の寄付や支援を得られました。呼びかけに賛同して下さった方々は累計5千人を超えます。関心が衰えていないのは嬉しい限り」

 映画ではめぐみさんを運んだ工作船や、被害者が生活する招待所、あるいは収容所の様子が綿密な取材で再現される。また、演者が操る流暢な朝鮮語が真実味をいや増している。

「実際の脱北者夫婦の協力も得て、交わされるセリフも可能な限り実際に近づけたつもりです」

 映画は02年の小泉訪朝団の帰国後、横田夫妻が外務省高官と面談し、めぐみさんの死を知らされる非情な場面から始まる。

「拉致問題が解決しない責任の半分は日本政府にあるわけです。その事実を映像で訴えたかった」

 めぐみさん役の菜月(なつき)(21)や北の工作員を演じた大鶴義丹(52)など、出演者の苦労もひとしおだったそうだ。

「二人とも朝鮮語はゼロからのスタートでしたが、頑張って覚えてくれました。菜月は映画で将軍様への誓いの言葉を繰り返し口にするのですが、そのセリフを頭に刻み付けていると“精神的におかしくなりそうだった”と言っていました。拉致の場面は秋田県の海岸で冬に撮影したもの。大鶴さんは、嫌な顔ひとつせずに冷たい海に何度も浸かってくれましたね」

 昨年8月の完成試写会を前に、横田滋さんが87歳で世を去った。監督が残された早紀江さん(84)に、

「ご覧になりますか」

 と尋ねると、

「あまりに辛いので、見ることができません」

 と口にして、

「めぐみが帰ってきたら、ぜひお願いします」

 そう微笑んだという。

週刊新潮 2021年1月28日号掲載

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