素人の“潜入捜査”が「昏睡レイプ事件」を阻止 逮捕のリスクを抱えて活動する理由

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 自主的に潜入捜査をした“素人”男性が性犯罪を未然に阻止した。集団で性的暴行を試みた犯人を警察に引き渡したのだ。生兵法はケガの元というが、そこにリスクはなかったのか。

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 事件が起きたのは昨年9月6日夜。大阪市内の居酒屋で、男3人が、30代の女性に睡眠導入剤のハルシオン入りのドリンクを飲ませて乱暴しようとしたという。

 大阪府警が準強制性交等未遂容疑で逮捕した3人は、女性の知人で会社員の亀山泰誠(23)と、居酒屋店長の喜々津(ききつ)晃(50)。そして、介護職員、西垣宏真(34)。

「9月25日に全員起訴済みです。その事実が、今年になって報じられました」

 と、府警担当記者。

「事件の1週間前、亀山が、ネットの掲示板に金銭トラブルになった知人女性の顔写真を掲載。“昏睡レイプ祭致します”“羞恥をしてあげましょう”と書き込み、参加者を募ったのです」

 これに応じたのが喜々津と西垣の両被告だが、実際には他にも“仲間”がいた。身分を偽って犯人グループの情報交換に潜入していた、身辺警護がメインの警備会社に勤める男性(34)だ。

 事件当日の役回りは、

「亀山が“いい店がある”と女性を連れて店を訪れ、そこに喜々津が“濃いめに作った”とハルシオン入りハイボールを提供。西垣は、客を装い店内で待機していました」(府警担当記者)

捜査の“穴”

 女性がハイボールに口をつけた刹那、捜査員がなだれ込み、3人を連行した。

「僕はそれを店の外から遠巻きに眺めていました」

 と、男性が振り返る。

「LINEのやりとりで、集合場所や日時、段取りの情報を得ました。犯行当日は東京から高速バスで集合場所近くまで出向き、近くの曽根崎署で説明したのです。逮捕に至ってよかった」

 女性は無事。男性も、犯人一味とは会っていない。潜入捜査はあくまでネットの段階までである。

 とはいえ、朝日新聞は〈専門家「自主捜査は危険伴う」〉との警鐘記事を載せ、仲間に加わる意思を示せば、場合によっては共犯に問われかねないとも指摘するが、

「それらのリスクは承知のうえです。僕がやっているのは警察の仕事の“穴”を埋めること。なにかあってからでは遅い。どうしたら警察が動いてくれるかです。教唆などに問われないよう気を配っていますが、逮捕されたりしたら、それは仕方ないと思っています」

 そこまで肚(はら)を据えるのは、

「実は、十数年前に僕の知人女性が性犯罪の被害に遭いました。そのときの思いを忘れられずにいると、3年前、座間でSNSを悪用した9人殺害事件が起きた。それを機に、性犯罪者捜しに本腰を入れるようになりました。昨秋、ツイッターアカウントを作り、“こいつを殺す”とか“レイプする”といった書き込みに対する通報を大々的に集めています」

 ちなみに彼はごく普通の体型。屈強そうには見えないが、

「僕は昔、空手と柔道をやっていて、いまもある程度は鍛えています。でも、プロ格闘家のような人がきたら敵いません。今回のように考えて行動します」

週刊新潮 2021年1月28日号掲載

ワイド特集「浮世の風強し」より

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