「バブル株価」崩壊の日は近い? いま買うべき銘柄とは 

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 コロナ禍で減収減益に喘ぐ企業が多いなか、なぜか、株価の高騰が止まらない。昨年末にバブル後最高値を記録したかと思えば、“3万円台”突入も囁かれだした。とはいえ、実体経済との乖離(かいり)は明らか。果たして、いまはまだ買いなのか。七賢人の言葉をもとに徹底検証する。

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 相場格言に曰く、子(ね)は繁栄、丑(うし)つまずき――。

 日本中がコロナ禍に悲鳴を上げた2020年だが、奇妙なことに株式市場だけは尻上がりに回復し、いまや“繁栄”を謳歌している。

 昨年3月に1万6千円台まで落ち込んだ日経平均株価は、昨年末には2万7568円をつけてバブル後の最高値を更新した。

 とはいえ、庶民の生活に目を転じると、冬のボーナスは雀の涙で、街中には“閉店”を知らせる張り紙が溢れている。コロナ第3波の猛威は一向に収まらず、2度目の緊急事態宣言も発出された。

 なぜ現下の株価は、これほどまでに実体経済とかけ離れているのか。

 シグマ・キャピタルのチーフエコノミスト、田代秀敏氏の解説によれば、

「日経平均株価がここまで高騰しているのは、実体経済がボロボロだからに他なりません。実体経済が悪いと各国の政府は大規模な財政出動を行い、中央銀行は金融緩和に乗り出します。日銀はETF(上場投資信託)や国債を買い進めて、市中に流れるお金の量を増やしています。しかし、現在のように経済の先行きが不透明な状態だと、企業も新規事業に投資するのに慎重で、主に株式市場にお金が向かってしまう。そこで利益が出たとしても設備投資や雇用に回すのではなく、新たに別の株を買い増すため、株価だけがますます高騰し、実体経済との乖離が広がっていくのです」

 行き場を失ったマネーは仮想通貨や不動産にも流れているが、メインの投資先は株式市場だ。

 そこにはわが国特有の事情も影響している。

 経済ジャーナリストの荻原博子氏が言葉を継ぐ。

「諸外国と異なるのは、日銀がETF購入を通じて株価を買い支えていることです。株価が急落した春先を含め、昨年1月から7月までの間に外国人投資家は4・8兆円ほど売り越しましたが、日銀は5・5兆円も買い越している。コロナ禍が収束しない限り、日銀による買い支えは続くと思います」

 日銀が日経平均に連動するETFを購入すれば、個別の株式を間接的に保有することになる。昨年11月末の時点で日銀のETF保有残高は約45兆円(時価ベース)に達したとされるが、これは公的年金の管理・運用を託されたGPIFの日本株保有残高を上回る数字である。

 つまり、日銀はコロナ禍の只中にGPIFを抜き、日本企業にとって“最大の株主”になったわけだ。

 日銀が買い支える以上、緊急事態宣言が再発出されようと、今後も株高が続く公算は大きいという。

 その一方で、

「まもなく春闘の季節を迎えますが、業績悪化に喘ぐ企業経営者が考えているのは従業員の賃金カットやリストラです。当然ながら、家計は冷え込み、消費が上向くことは考えられない。飲食店や中小の小売店もその余波に呑み込まれてしまう。株高の反面、一般国民の生活はより一層悪化すると思います」(同)

 国民の肌感覚とは正反対に高騰を続ける株価。

 マネックス証券チーフ・ストラテジストの広木隆氏はこう分析する。

「株式市場には、現在よりも将来の経済状況を重視する傾向が強くあります。確かに、足元の状況は極めて悪い。しかし、多くの投資家が“いまが最悪の状態”と捉えれば、先々への期待で株価は上がっていくのです。現在の株高がコロナ禍によってもたらされたのは間違いありません。政府や日銀が救済措置として金融緩和や給付金といったばらまき政策を行い、余ったマネーによって株式市場が潤っている。これを“不景気の株高”と呼びます。ただ、株式市場全体では来期の業績をもとに見通しが立てられるので、まだバブルとは言えないと考えています」

 それでは、実体経済と無関係の株高は一体いつまで続くのだろうか。

 この点、広木氏は次のように指摘する。

「まもなく世界中でワクチンの効果が明らかになってきます。そこで好ましい結果が得られれば、企業の業績が回復して景気が上向くという期待感が高まる。市場の目もコロナ後の経済活動の活発化に向けられるはずです。もちろん、コロナ禍が一瞬にして消え去るわけではないので、政策的なサポートは継続されます。結果、株高も続くというわけです。日経平均株価については、夏頃に3万2千円辺りまで上がってもおかしくありません。ただ、あくまでも“コロナが原因の株高”なので、疫禍が収束すれば株価は下落していくでしょう。その端緒として政府や日銀が救済措置から手を引けば、当然ながら株式市場に流れるお金も減るため、株価はギクシャクし始める。早ければ今年の下半期、個人的には来年に入ってからそうした状態が訪れると予測しています」

「バブル大崩壊」再び!?

 ファイナンシャルプランナーの深野康彦氏によれば、

「目下、世界の主要国がコロナ対策として、金融緩和策と財政政策の両面で思いきりアクセルを踏み込んでいます。こうした状況が変わらない限り、上昇相場は終わらず、場合によっては22~23年まで続く可能性もあると思われます」

 今年の株式市場の展開については、

「昨年末に株価が上がり過ぎて新たな好材料も見当たらないため、1月から2月にかけては2万6千円から2万7千円辺りでもみ合い状態が続きそうです。その後、ゴールデンウィーク前後に2万5千円台まで下落する。理由のひとつは企業経営陣が後ろ向きの決算予測を発表して投資家の落胆を招くから。そして、ゴールデンウィーク中の人の動きによっては第4波が到来する可能性もある。とはいえ、ここが株価の底だと思います。金融緩和と財政政策に加え、来期の企業業績は今期と比べて40~50%増益すると見込んでいるため、年末には3万円に達するのではないか。もし増益幅が40%に満たなければ3万円には届かないかもしれません」(同)

 第一生命経済研究所の首席エコノミスト・永濱利廣氏も、日経平均は「最大で2万9千円」まで上昇すると予測する。

「理由はワクチンの接種率が上がって景気の先行きへの期待が高まるからです。ただ、それ以上の値上がりは望みづらく、今年後半には2万5千円程度に下落すると考えています」

 加えて、永濱氏が指摘するのは、コロナとは別の懸念材料についてだ。

「株高の要因のひとつに挙げられるのがアメリカのねじれ議会。バイデン次期大統領は民主党所属ですが、現在の上院は共和党が多数派を占めています。しかし、ジョージア州の上院2議席を巡る決選投票の結果によっては、株高にブレーキがかかるかもしれません」

 先の大統領選と同日に行われた上院選挙で民主党は48議席、共和党は50議席を確保した。だが、ジョージア州では過半数の票を獲得した候補者がおらず、今月5日に決選投票が行われ、民主党が2議席を確保。これにより、上院議長を兼務するカマラ・ハリス次期副大統領が採決の決定権を握ることになった。その結果、バイデン次期大統領が公約に掲げた富裕層や企業への増税が現実味を帯び、株価にも悪影響を及ぼすというわけである。

 他方、経済アナリストの森永卓郎氏は急激な株高に危機感を募らせる。

「株価の割高感を示す“シラーPER”という指標があり、この指標が一定期間、25倍以上で続けばバブルだと言えます。ITバブルは、シラーPERが79カ月にわたって25倍以上で推移した後に崩壊し、リーマンショックでは52カ月が経過したところで株価が暴落している。実は、現在も同じ状況が起きていて、昨年12月末でITバブルと同じ79カ月に達しました。過去の事例を振り返っても、今回の“金融緩和バブル”の崩壊は近いと考えています。目下の株高を支えているのは、ワクチンの開発が進んで経済活動が復活するという期待感です。しかし、ワクチンが望み通りの成果をもたらさなければシナリオが崩れ、バブルも弾け飛んでしまう。今年中に日経平均株価が1万3千円台まで暴落してもおかしくありません」

狙い目は「環境」銘柄

 実体経済と乖離した株高に専門家の意見も割れている。荒れ模様の株式市場に漕ぎ出すべきか、踏み止まるべきか。そこで、コロナ禍にありながら資産を増大させた凄腕個人投資家の声に耳を傾けてみよう。

 株式会社Zeppy代表で投資家の井村俊哉氏によれば、

「私の場合はリモートワークやクラウドサービスなどを手掛ける、いわゆるDX関連の銘柄に投資してきました。コロナ禍が長引いても、反対に早期に収束したとしても、デジタル技術を用いた企業の業務効率化が進むことは間違いありません。むしろ、コロナ禍によってサービスの便利さが知れ渡って株価が高騰しました。そうした銘柄に資金を集中させたことで、昨年初めに2・7億円だった株式資産が、いまでは6億円を超えています」

 なんとも羨ましい限りだが、井村氏が重視するのはあくまでもビジネスモデルの継続性。たとえコロナ特需に沸く銘柄があっても、いきなり飛びつくことはお勧めしない。

「巣ごもり需要もありゲーム会社は好調ですが、競争も激しく、コロナ禍の一過性の特需と判断されれば株価は下落してしまう。ホームセンターやスーパーマーケットに関連する銘柄も一時は急騰しましたが、今後はどうなるか分かりません。DX関連も十分に株価が上がっているものが多いので、ここは逆張りで“コロナネガティブ銘柄”を買うのもいいかもしれません。社会がコロナと共生することを受け入れるようになると、レジャーや飲食関連の株価も戻ってくる可能性はあると思います」(同)

 続けて、先の深野氏に尋ねてみると、

「業種としては、代替エネルギーに絡む環境関連の銘柄を薦めたいですね。菅総理も2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにする方針を発表したので、国策のど真ん中を買っていくということです。たとえば、太陽光や地熱といった再生可能エネルギー発電所を運営するレノバや、バイオマス発電を手掛けるエフオン、タクマが挙げられます。水素エネルギー関連では、岩谷産業や那須電機鉄工など。それ以外にはオンライン診療システムのメドレーに注目しています」

「国策に売りなし」。なるほど、コロナ禍でも成長が期待できる企業は決して少なくないようだ。

 だが、田代氏は慎重な姿勢を崩さない。

「日本経済の先行きが明るくないなかで、株式投資を資産形成の手段にすること自体は否定しません。ただし、一般のサラリーマンが投資をするのなら鉄則に従うべき。すなわち積立式の投資信託です。毎月同額を投資することで、株価が乱高下してもリスクを分散でき、つみたてNISAを活用すれば節税にも繋がります。加えて、個別株を買う際には、ご自身が働いている業界や分野のなかで投資先を探してみてください。いまのように荒れた相場では証券会社に丸投げせず、ご自身の知識や経験を活かして相談した方が良い投資先を見つけやすいと思います」

 では、“バブル崩壊”を予測する森永氏はどうか。

「株式投資に手を出すのは構いませんが、やはり暴落への備えは必要です。リスクヘッジのため、たとえば、株価が下落トレンドに入ったら、値下がり幅の2倍値上がりする“日経ダブルインバース”という投資信託などに目を向けてもいい気がします。また、実体経済と株価が乖離する背景には、“世代交代”の影響もあるように感じます。80年代のバブル期には、“日経平均が7万円に”という記事が週刊誌を賑わせました。当時を知る世代が現役を離れ、バブルの怖さを知らない世代が参入してきたからこそ、株高に歯止めがかからないのではないでしょうか」

 3万円台突破か、1万5千円割れか。金融緩和、財政出動による「株価バブル」という前提は同じなのに、今後の予測は専門家の間でも真っ二つに割れる。げに恐るべきは株式相場。

 日本の相場格言では丑は“つまずき”だが、アメリカの金融業界でブル(牡牛)は強気相場の象徴。あえて勝負に打って出るのなら、まずは賢人たちの言葉を反芻してもらいたい。

週刊新潮 2021年1月14日号掲載

特集「七賢人が予言! 実体経済とはかけ離れ…『バブル株価』はまだ買いか、買えば奈落か」より

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