朝ドラ「杉咲花」の大阪弁は完璧 歴代「朝ドラ女優」で最も関西弁が上手かったのは?

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舞台は関西でもヒロインは……

 これまで大阪制作の朝ドラには、関西弁との長い葛藤の歴史があるという。

「朝ドラ第103作目となる『おちょやん』ですが、大阪制作としては44作目となります。第4作『うず潮』(64年、主演:林美智子)が初の大阪制作で、舞台は広島や東京でした。当時はまだ、1作で1年間放送していました。現在のように半年ずつ前期と後期で分け、後期を大阪制作するようになったのは75年から。その大阪版の1作目が『おはようさん』(75年後期)です。舞台は初めて大阪となり、ヒロインは秋野暢子でした。彼女は大阪ミナミの呉服屋さんの娘ですから、言葉もネイティブ。難なくクリアしていました。次に関西(神戸)が舞台になったのが『風見鶏』(77年後期)で主演は新井晴み(当時は新井春美)。彼女は東京出身ですが、関西弁が上手かったかどうか、あまり記憶がありません。というのも、全国区のドラマでコテコテの関西弁が使われることが少なく、例え下手でも、それっぽいイントネーションがついていれば、関東人はむろん関西人も気にしませんでしたからね」

 これを機に大阪制作の朝ドラには、必ずと言っていいほど関西が舞台になる。

「地元愛が強いんでしょうね。広島と京都が舞台の『わたしは海』(78年後期)のヒロインあいはら友子(当時は相原友子)は神戸の出身。滋賀・大阪が舞台の『鮎のうた』(79年後期)のヒロイン山咲千里は京都出身。宝塚歌劇団を描いた『虹を織る』(80年後期)の紺野美沙子は東京出身ですが、ヒロインは山口県出身という設定でした。大阪が舞台の『よーいドン』(82年後期)の藤吉久美子は福岡出身ですが、大阪の大学に進学。在学中にオーディションを受けヒロインに選ばれています。まったく関西弁が話せなければ、ヒロインの出身地を他の地方にしたり、出身地は関西でなくても関西弁に馴染みのある女優をヒロインにしたようですね」

 大阪が舞台の「はっさい先生」(87年後期)の若村麻由美は東京出身だが、ヒロインも東京生まれだった。

 もちろん例外もある。「純ちゃんの応援歌」(88年後期)の山口智子は栃木出身だが、ヒロインは和歌山生まれで、舞台は大阪、滋賀とオール関西だった。彼女は関西弁の台詞についてこう語っている。

〈せりふは関西弁だったんですけど、初めての演技だった身としては、関西弁の独特のリズムに助けられました。「何でやねん」の高低差を考えながら、言葉をメロディーのようにして気持ちを乗せて…。朝ドラを終えた後、東京に帰ってきて民放のドラマに出演して標準語の芝居をしたときの方が、逆に難しかったです。〉(サンケイスポーツ:19年7月14日付)

「演技経験がない場合、まったく縁のない言葉のほうが、口に出しやすいこともあるんでしょうね。ただ、まだこの頃まではネイティブな関西弁は東京ではそれほど浸透していなかったと思います。東京のテレビで関西弁が聞かれるようになるのは80年代前半の漫才ブームからですが、大阪漫才のやすしきよしですら、MCでは関西弁に東京弁をブレンドしたような喋りでした。本格的な関西弁が流れるようになるのは90年代でしょうね」

 まさにネイティブの喋りが朝ドラで流れたのは「ふたりっ子」(96年後期)だったという。

「舞台は通天閣のそびえるコテコテの“新世界”で、ヒロインの幼少期を演じたマナカナ(三倉茉奈・佳奈)は大阪市平野区出身ですからね。彼女たちの可愛さもあって、関東でも受け入れられ、東高西低と言われた朝ドラの歴史を覆しました」

 2000年代に入ると、朝ドラは低迷の時代に入る。復活の声を上げたのは東京制作の「あまちゃん」(13年前期)だった。その年の後期、大阪制作の「ごちそうさん」のヒロインは東京出身の杏だが、この時もヒロインは東京のレストランの娘が大阪へ嫁ぐという設定だったため、完璧なバイリンガルである必要はなかった。

「関東出身で関西弁を見事に喋った女優といえば、波瑠でしょう。『あさが来た』(15年後期)は平均視聴率23・5%(ビデオリサーチ調べ、関東地区・世帯)は今世紀最高の金字塔で、未だに破られていません。舞台は京都と大阪で、彼女が京都弁と大阪弁を綺麗に使い分けたのには舌を巻きました。これに味をしめたのか、“若手女優はんは関東出身でも大阪弁はいけるでぇ~”とでも言うように、大阪放送局は関東出身者にもコテコテの大阪弁を使わせるようになります」

 ところが、兵庫・大阪・滋賀が舞台の「べっぴんさん」(16年後期)の芳根京子(東京出身)、京都・大阪が舞台の「わろてんか」(17年後期)の葵わかな(神奈川出身)には、関西弁がおかしいとの声もあった。

「それにも懲りず、大阪舞台の『まんぷく』(18年後期)でも東京出身の安藤サクラをヒロインにしました。この時はどういうわけか賛否両論となりました。一口に大阪弁と言っても、地域によって違いがありますからね。実は、関西芸能人でも“ほんまの大阪弁”にコンプレックスを持っている人は多いんですよ」

 そうだったのか。ちなみに芸能界一の大阪弁遣いは今田耕司だそうだ。

「続く、大阪・滋賀の『スカーレット』(19年後期)には神戸出身の戸田恵梨香を起用。ネイティブすぎて、大阪出身の私には下手に聞こえるという奇妙な現象も起こりました。そうした葛藤を経た集大成こそ『おちょやん』だと思います」

 果たして関東人による、上手すぎる大阪弁は、どんな結果をもたらすだろうか。

週刊新潮WEB取材班

2021年1月8日掲載

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