「日本はなぜそんなことに?」 元特殊部隊員が明かす「海外軍人の驚愕」

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戦争はすでに「プロ」のものか

成毛 今後、軍というのはあらゆる側面でますます専門化していくはずです。例えば情報機関にはハッカーみたいな連中が山ほどいますよね。もちろん、それを分析する部署の兵士は政治的なバックグラウンドを持っているけれども、その前段階にいるスタッフは、信号を傍受して解析する技術者そのものです。拳銃の弾すら見たこともないタイプの人たちでしょう。

 その一方で、伊藤さんが所属していたような部隊もある。あらゆることが専門化していますが、軍事も同様に、一般の人が昔のように簡単に称賛したり批判したり、いずれにしても口を出しにくい状態になっています。それはそれで問題をまた含んでいるとも思います。

柳瀬 プロ同士の戦いになるわけですね。自衛隊を取り巻く環境は激変しているわけですが、自衛隊員の意識は、時代とともに変化しているんですか? 先ほどびっくりするくらい公の意識が強いとのお話がありましたが。

伊藤 あまり面白くない結論かもしれませんが、変わらないと私は感じています。ただし、時代の変化でいえば、意識は変わらないのですが人材の「質」には浮き沈みがあるかもしれません。景気のいい時は、公務員全般に通じますが「質」は良くない。民間の待遇がいいので、そっちに流れてしまいます。私が入隊した時はバブル期ですから、もちろん全員ではありませんが、私も含めて日本史上最低の人材たちが入隊したといわれ続けてきました。景気のいいときは上野駅でポンポンと背中を叩いて「君、いい体しているね」とスカウトするらしくて。  

柳瀬 あれ、本当にやってるんですか  

伊藤 いや、実際、やっているとは聞いたことないですけど、やりかねないと思います。人材が来ないときは本当に来ませんから。

「この右翼が!」と石を投げつけられた時代

伊藤 意識は変わらないと言いましたが、その私でも、入隊直後は周囲のあまりの意識の低さに入隊を後悔しました。

柳瀬 どうしてですか?

伊藤 私は自衛隊というものを、国のために命を捨ててもいいと思う若者の集団だと勝手に思い込んでいたんです。ところが、入ってみたら、周りからそういう気概が全く感じられないんです。会社でいう新入社員教育を4カ月半受けるんですけど、最初の1週間は後悔だけでしたね。

柳瀬 その辺りは『自衛隊失格』に詳しいですよね。俺はなんでこんなところに入ってしまったんだ、こいつら全くやる気がないって。そこで、幹部候補生の試験を受けて江田島(海自幹部候補生学校)に入学された。

伊藤 はい。後悔しかなかったんですが、だんだん私のその認識もまた間違っていたことに気付きました。彼らは「騙されて自衛隊に入った」とか口々に言うのですが、照れ隠しなんです。心の中では、公に殉じたい、人の役に立ちたいという気持ちが、実は非常に強い。先ほど申し上げたように、徐々に胸襟を開くうちに、わかってきました。

柳瀬 ストレートには表現しにくい時代だったんですか。

伊藤 あの時代は「国のために」と言った途端に「この、右翼が!」と後ろ指をさされましたからね。今は、「国のために」と言った瞬間に糾弾される空気はなくなり、自衛隊員も本心をそこまで隠さなくてもいい時代になりました。  

柳瀬 時代の空気が変わってきたというタイミングはありましたか?

伊藤 何か大きなきっかけがあったというよりは、徐々にですね。昔は、大げさな話ではなく、のけもの扱いにされていました。それがだんだんなくなっていった変化を感じます。私が入った頃は、自衛隊員が唾を吐きかけられたり、税金泥棒と罵られたり、石を投げられたりといったことが日常茶飯事でしたから。私はどちらかというと、自衛官であることで意味もなく感謝される経験が幸いにして多いです。石を投げられたなんて聞かなくなったのは、入隊して10年ぐらい経った頃かと思います。

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