保健所が厚労省に「2類指定を外して」 体制の見直しで医療逼迫は一気に解消へ

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「働いている人が減ったとは感じない」

 12月8日、全国保健所長会が厚労大臣宛てに「緊急提言」を送っている。新型コロナウイルスは現在指定感染症(2類相当以上)の扱いだが、これを緩めてほしいというものだ。メディアは保健所の逼迫を受けて「医療崩壊だ」「外出するな」と叫ぶが、本当に必要なことは指定感染症2類扱いの見直しではないのか。

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 連日ワイドショーで紹介される医療関係者の悲鳴を聞くかぎり、全国の病院がいまにも崩壊しそうに感じられるが、はたしてそれは実態なのか。医師や看護師が次々と退職したと話題になった、大阪市の十三(じゅうそう)市民病院の前で、何人かの来院者に話を聞いた。

 ご主人が肝臓がんで入院した80代の女性は、

「5階に入院してから主人と会えていません。着替えをもってきても渡すのは看護師さん。妻の私でも主人と会われへんのは、コロナ対策いうことみたいですわ。要は、コロナの人が大勢いるから健康な人はなるべく来ないでくださいねと。私も来るのは嫌ですけど、仕方ないですわ」

 持病があって通院する70代の女性は、

「ここから入ってください、院内ではこの動線に沿って動いてください、というようになっています。でも主治医の先生が替わったとかはないですね。働いている人が逃げ出したという報道も見ましたが、働いている人が減ったとは感じません。ただ、検査技師とかが結構やめてるみたいやね」

医師「若者にとってはただの風邪」

 物々しい雰囲気は伝わるが、コロナ患者を受け入れると、どう負担がかかるのか。関西の開業医が語る。

「11月から、うちもPCR検査をしていますが、大きくは告知していません。コロナが疑われる患者さんの来院時は、職員に下がってもらい、私一人で検査を行います。指定感染症2類相当として扱われているので、一般の患者と動線を分ける必要もあり、行うのも昼休みか夕方の診療後です。職員の安全確保や消毒の手間を考えると大変です。うちが認定機関に手を挙げたら、翌日には契約書が送られてきたから、自治体もコロナを受け入れる医療機関を増やしたいのでしょう。しかし、うちも1月以降、患者は3割ほど減っていますし、知り合いの小児科は10分の1にまで減っている。そういうなか民間医療機関が受け入れるのは難しい」

 そして、つけ加えた。

「現場の医師の感覚で言えば、コロナは若年者にとってはただの風邪です」

 この開業医の話からは、コロナ患者を受け入れると、たしかに病院は大変な状況に陥る、しかし、言われているほど怖い病気ではない、という二つのことがわかる。では、いま行うべきはなにか。医師でもある東京大学大学院法学政治学研究科の米村滋人教授は、

「医療逼迫の真の原因は、日本の医療体制そのものにあります」

 と言って、説く。

「日本では医療法上、病院の監督権限をもつ都道府県知事らが、各医療機関の医療内容に関して直接的な指示や命令を行うことは認められていません。だから、公的医療機関に対しては国や自治体が事実上指示できても、民間に対しては要請しかできません。このため、ほとんどが公的医療機関であるイギリスやフランスと違い、民間病院が81%を占める日本ではいま、一部医療機関に負担が集中し、医療従事者が疲弊する事態になっています。また、医療機関に人員を派遣するなどの公的措置もなかったので、各医療機関は内部で人員をやりくりし、不慣れな者も含めてコロナ患者の治療に当たることを余儀なくされ、医療従事者間にも負担の偏りが生じています」

 そして、こう訴える。

「政府も分科会もGoToに予算を割き、感染者が増えたら一時停止にするなど、その時々の感染状況に踊らされた、近視眼的な対策に終始しています。ここまでわかることが増えても、相変わらず場当たり的な対応しかしないなら、専門家として失格です。必要なのは半年先、1年先を見据えた具体的な提言。医療崩壊を防ぐために、コロナ受け入れ病院に人員を派遣した医療機関や個人に給付金を支払うなど、医療資源を均衡化するためのお金の使い方が必要です」

煽るテレビ、新聞の責任は

 政府は追加経済対策に、新型コロナの感染拡大防止策として5兆9千億円を盛り込んだが、そのごく一部を割いて不均衡を是正すれば、医療の逼迫は抑えられるはずだ。それをせずに末端にツケを回すなら、もはや政治ではあるまい。

 加えて、新型コロナ患者を受け入れた医療機関の関係者の多くが、なぜ悲鳴を上げる事態になるのか、考える必要がある。

「感染者が欧米の数十分の1なのに、日本で医療逼迫が起きているのは、ひとえに新型コロナを指定感染症の2類相当として扱っているからです」

 と、東京大学名誉教授で食の安全・安心財団理事長の唐木英明氏が指摘する。

「感染者数がピークでも1日2千~3千人で済んでいる日本は、5万~20万人の欧米から見れば感染対策に成功している。欧米の状況と比較するのは重要で、多くの政治判断は相対的な基準を拠り所に行われるからです。たとえば10万人当たりの感染者数をくらべれば、2類扱いを維持すべきかどうかは明らか。2類扱いだから医療が逼迫し、指定病院は一般患者が遠のいて赤字になり、医療関係者や保健所はオーバーワークを強いられ、その家族まで風評被害を受ける。インフル同様5類にすれば受け入れ可能な病院も増えるのに、それができないのは、新型コロナは“死ぬ病気だ”という意識を国民に植えつけた専門家、テレビ、新聞のせいです」

保健所も「2類相当の扱いを緩めてほしい」

 どこも報じないが、12月8日、全国保健所長会が厚労大臣宛てに「緊急提言」を送っていた。そこには、

〈災害時に準じた対応を余儀なくされています。2020年2月1日の指定感染症の指定以降、数カ月にわたり危機的な状況が継続していることを以下の現状とともにお伝えいたします〉

 という文言に続き、保健所の逼迫状況が書かれ、

〈感染拡大の状況は地域により異なるので、現行の指定感染症(2類相当以上)の運用を、全ての感染者に対応することが困難である地域においては、感染症法上の運用をより柔軟に対応すること等を、以下に提案する〉

 として、2類相当の扱いを緩めることで、保健所の逼迫状況を解消してほしい旨が綴られている。

 テレビも保健所の逼迫を報じているが、常に「だから感染拡大を防げ」「外出するな」という結論に導かれている。新型コロナの感染者に、致死率5割を超えるエボラ出血熱並みの対応を求められている保健所の悲鳴は無視され、世論を煽る材料に使われているのだ。

週刊新潮 2020年12月24日号掲載

特集「『コロナは煽っていい』『自殺は関係ない』ワイドショーの使命に自己陶酔『玉川徹』の口にマスクを!」より

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