「ガソリン車禁止」で中国が得る利益 自動車関係者に打撃、「スズキ」会長「努力はしますが…」

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私欲ドロドロの商戦

 そもそも、EVは本当にエコなのか。そこにも疑問の声はあって、井上氏によれば、

「確かに、走行中だけをみれば、CO2を出すガソリン車やHVより、地球にやさしい。でも、Well-to-Wheel、つまり油井から自動車までという考え方に照らせば、発電の際に、中国などは石炭火力に多くを頼っていますから、EVといえども、発電時に炭素を発生させていることになる。高性能のHVの方が、まだトータルで排出する炭素量は少ないというデータもあります」

 であれば、なおさら、政府の高過ぎる目標設定に首を傾げたくもなる。

「裏に、ある“黒幕”の存在が囁かれています」

 とは、さる政府関係者。

「この5月、経産省の参与となった水野弘道という人物がいる。彼が菅総理はじめ政権幹部に『脱ガソリン車』を積極的にプレゼンしていました。菅さんが大胆に舵を切ったのは、この影響も大きかった」

 水野氏は現在55歳。住友信託銀行を経て、イギリスなどの投資の世界で活躍。世耕弘成・元経産大臣の知遇を得て政界に人脈を築き、日本の年金150兆円を運用する「GPIF」の最高投資責任者を3月まで5年間務めていた。

「有能ですが、ドライで頭は金融のことばかり。総理と何度も面談するなど政界からの信頼は厚いですが、今件については、大きな問題がある。彼は、実は、テスラ社の社外取締役でもあるのです」(同)

 先に述べたように、テスラ社はEVのリーディングカンパニー。水野氏がその役職についたのはこの4月で、同社の株も2700株ほど得ている。折からの株価高騰で莫大な利益を得、その上、自らの関係する会社の利益となる政策を、自ら提案する我田引水……。

「中立性が疑われます」(同)

 クリーンなエコの裏には、私欲ドロドロの商戦もあるのだ。

 政商が如き水野氏に聞くと、

「経済産業省参与として意見を述べる場合には、毎回テスラの社外取締役であるということを念のため確認した後、その立場を離れて発言しております」

 と言う。

「自動車のEV化の流れ自体は止められませんが」

 と、前出の長内教授。

「しかし、日本の産業政策全体の中でそれをどう位置付け、どのような目標を立てていくのか。今まで日本が得意にしていた部分を生かしながら、それをどうEV時代の強みに転換していくのか。そうした戦略、見取り図がないまま、何となく環境だ、世界標準だ、と言って、ガソリン車をすべて廃止してしまえ、という政策は、あまりにもリスクが大きいと思います」

 最後に、業界の重鎮、「スズキ」の鈴木修会長が一言。

「政府の方針であるから努力はしますが、しかし、何事も総合的に、そして長期的な視野で考える必要があるのだと思います。一寸先は闇。10年先のことは誰にもわからない……」

 戦後日本の基幹産業であり続けている自動車産業だけに、その成否は国の存亡にも関わる。果たして今回の方針に、「国家百年の計」はあるのだろうか。

週刊新潮 2020年12月24日号掲載

特集「『ガソリン車禁止』で1300万人が路頭に迷う!」より

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