「チェリまほ」「35歳の少女」妙に30代が多い今期ドラマ 当たり作は?

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 今期のドラマでは、30代の皆さんが大変なことになっとる。30歳で童貞のままだと人の心が読めるようになっちゃったり、体は35歳なのに中身は少女のまんまだったり、38歳でマッチングアプリに手を出して、うっかりやりまくったり。これ、20代では憂いが足りず、40代では悲劇が強すぎるので、確かに30代が適切だなと思う。振り返るほどの過去がなく、ため息つくほど未来や健康に不安があるわけでもない。いい意味で自由かつ無自覚な年代だから。

 長いタイトルは文字数食うからマジやめてほしいんだけど、まず「38歳バツイチ独身女がマッチングアプリをやってみた結果日記」(テレ東)だ。主演の山口紗弥加がとにかく色っぽくて湿度が高いので、コメディ要素を弱めちゃった感がある。若い男性とお手合わせしまくる素晴らしい内容だが、色気と性欲が心地よく比例せず、性的に主体性が乏しいのも残念。紗弥加の自虐は自虐にならないのだ。「35歳の少女」(日テレ)は、柴咲コウが灰色の大人になってから直視できるようになった。個人的に、大人が子供を演じるのがとにかく苦手。観ていて恥ずかしくなるから。「純真無垢な子供はこうだろう」と演じる側の目線が既に汚れた大人であることがわかっちゃって妙に恥ずかしい。柴咲はうまい。うまいし、10歳になりきったがゆえ、余計に鳥肌が立った。これは私が克服しなきゃいけない課題だと思う。還暦の大竹しのぶが少年を演じた衝撃のミュージカル「にんじん」でも観て、苦手を克服せねば。

 もうひとつ、苦手が。「パパ・ママ」の連呼である。いや、呼称くらい気にすんなやと思うのだが、大の大人が自分の親をパパ・ママと呼ぶことに恥ずかしさを覚える。人前で自分の母親を「ママ」「お母さん」と呼ぶのも鳥肌が。母だろ、そこは。呼び方ひとつで文句たれて完全な老害だと自覚はするが、どうしても譲れない。

 10歳の少女が25年の昏睡状態から奇跡的に目を覚ますと、家族は崩壊、自分は35歳の中年になっていたという設定は好きなのに。遊川和彦が描くダメ人間カタログと家族再生物語も好みなのに。細かい部分で躓き、没頭することができず。

 最後はこれまた長い「30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい」(テレ東)。冴えない童貞・赤楚衛二が30歳を迎えたとき、触れた人の心が読めるようになるファンタジー。童貞が魔法使いで、略してチェリまほ。

 優しくてイケてる優秀な同期・町田啓太に好意を寄せられ、お付き合いするという牧歌的BLだ。赤楚の親友で同様にチェリまほになったのが浅香航大。宅配業者の青年・ゆうたろうと恋に落ち、無事童貞を卒業。

 BLラブコメだが「おっさんずラブ」のようなドタバタ劇は控えめ。不器用だがまっすぐな心根の三十路男たちが愛を育む様を描く。

 今期、最も素直に観られる恋愛モノ。感情移入も自己投影もしないから、心穏やかに楽しめる。赤楚と町田がうまくお手合わせできますよう、と汚れた心で見守る。男同士でイチャコラしとるだけだが平和だから。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビドラマはほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2020年12月24日号掲載

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