「100円でもいいから」と金を無心 飛び込み自殺の母娘、心中の原因となった貧困生活

国内 社会 週刊新潮 2020年12月17日号掲載

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 80代の母と50代の娘が通過するロマンスカーに身を投げた。当初は分からなかった身元がようやく判明すると、追い詰められていた「8050」の二人の実像が浮かび上がって……。

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 事故が起きたのは先月28日の午後11時7分。東京都町田市にある小田急線の玉川学園前駅で87歳と52歳の母娘が駅を通過する新宿行きの特急ロマンスカー「はこね72号」に並んで飛び込み、亡くなったのだ。

 社会部記者の話。

「駅では1時間ほど前から逡巡する母子の姿が防犯カメラに収められていました。何度も身を投げようとしては、決心できずにためらう様子だったそうです。この駅はホームドアが設置されておらず、人身事故が度々発生。“自殺の名所”としても知られています」

 走るロマンスカーへ飛び込んだゆえに、

「遺体は損傷が激しく、身元特定までに数日かかりました」(警視庁関係者)

 二人の生活圏は町田ではなく、神奈川県座間市にあった。

 小田急相模原駅から徒歩15分ほどの閑静な住宅地に古い3階建てのマンションがある。7世帯が入居していて、この1階に母子は二人で住んでいた。

「6年ほど前に引っ越してきたんです」

 とは同じマンションに暮らす住人である。

「当初からお母さんも娘さんも仕事をしている様子がなくてね。娘は身長が150センチちょっとなのに60キロは超えているような体形で、朝から家の前でたばこを吸っては缶ビールを呷(あお)るような生活。駅前のパチンコが行きつけだったんだけど、風呂に入っていないのか、臭いがきつくて、客の間で評判になっていました」

4億円の遺産

 生活は苦しかったようで、

「年金暮らしだった二人は同じマンションの住人に借金をしていたんです。しかも一人ではなく複数人から借りていましたよ」(同)

 実際に、金を貸したことのある住人に聞くと、

「今年の9月、夜になって突然、娘がピンポンしてきたんだよ」

 思い悩んだ末のように、娘はこう切り出してきた。

「“2千円貸してくれませんか”って。このマンションって近所付き合いがあって、彼女も知らない仲ではないし、貸してあげたんですよ。そうしたらまた3日後に来た。“今度、遺産が入るので収入印紙が必要なんです”と言って、“1万円貸してくれ”と。たまにお母さんも来るようになって、合計で10万2千円を貸したんですよ」

 ところが、待てど暮らせど金は戻ってこず。

「10月末に娘が“また借りたい”と来た。“いつ返してくれるんだ”と聞いたら、“近々、遺産が4億円入ります。そのための印紙代が必要で。そうしたら色を付けて100万円で返します”だって。これで嘘だとわかったね」

 まるで寸借詐欺の手口で金を無心していた親子。近隣住人が自宅に押し掛け、金を返せと騒ぎになったこともあったという。

「ある人には金を借りられなくなると、“100円でもいいから”なんてせがんだこともあった。面倒だから100円渡して追い返したそうだよ」(別の住人)

 自宅のある小田急相模原駅から玉川学園前駅まで電車で約15分。身を投げたホームにはその時間、10分おきに列車が到着していた。「8050」母娘はいつでもその場から離れられたのに、心中を思い留まることはできなかった。やがて直面する老老介護の難局を生き抜ける自信などなかったのだろう。

ワイド特集「戦いのゴングは鳴った」より