「反日緩和」に舵を切った文在寅、市民団体の「反日激化」が彼を苦しめる

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ソウル地下鉄に書かれた「反日広告」

 ソウル地下鉄1号線の鐘閣駅。

 例年通りなら多数の日本人観光客が訪れる明洞の近くに、「日本は強制動員謝罪賠償せよ」と刻まれた広告パネルが掲載された。

 日本を非難する垂れ幕を手に持った1087人のモザイク写真が貼り付けられている。

 パネルには「歴史を忘れた民族に未来はない」「犯罪に対する謝罪と賠償は当然」と書かれたメモ用紙が貼られたが、「おばあさんたちの金を奪った尹美香は謝罪せよ」「偽りの扇動を止めろ」というメモもあった。

 政府の反日的傾向が弱まるなか、地下鉄の広告パネルを通して反日を続ける市民と、反対派の衝突が起きているのだ。

 SNSを利用した反日活動も相変わらずだ。

「勤労挺身隊おばあさんと共にする市民の会」は11月29日、フェイスブックに徴用工賠償について日本政府と企業を侮辱する投稿を掲載した。具体的には以下の通りだ。

「日本政府と三菱は最小限の礼儀すらない。円満な解決策を求めて数回対話を提案したが、無視した」

「韓国の裁判所だけでなく、日本の裁判所も被害者の個人請求権を認めている」

「日本の裁判所は(1965年の)韓日請求権協定を口実に、日本の裁判所では権利を主張できないと弁解したが、個人請求権自体が消滅したという主張はしなかった」

 これらの文言には、韓国の市民団体がどれほど誤った情報で反日扇動をしているかが見て取れる。

 そもそも、日本政府は徴用工賠償問題を解決する対話を拒絶していない。

 昨年11月、二階俊博自民党幹事長と当時の文喜相(ムン・ヒサン)韓国国会議長が徴用工賠償問題の解決策を話し合い、日韓両国で補償する案を模索した。

 自民党の政治家と韓国の国会議員が直接顔を合わせて数回話し合ったが、韓国の左翼団体が妨害したのである。

フェイクニュースを煽る人たち

 慰安婦団体と左翼市民団体は「謝罪が先だ。補償は後だ」と主張し、安倍内閣に謝罪を要求。さらに、文喜相議長を「日本政府と金で解決しようとする売国奴」だと非難した。

 フェイクニュースを煽る人たちと何ら変わらない。

 日本政府は数回、対話を試みたが、韓国の市民団体に阻まれ、それ以上の対話を続けるのは無理だった。

 加えて、「日本の裁判所も被害者の個人請求権を認めている」と主張するのだが、日本の裁判所が元徴用工の個人請求権を認める判決を下したことはない。

 文在寅大統領だけでなく、韓国の市民団体も“日本も徴用工被害者の個人請求権を認めた”と主張し、その根拠を1991年8月27日、当時の柳井俊二外務省条約局長による答弁としている。

 柳井局長は当時、大要こう述べている。

《日韓請求権協定におきまして両国間の請求権の問題は最終かつ完全に解決したわけでございます》

《これは日韓両国が国家として持っております外交保護権を相互に放棄したということでございます。したがいまして、いわゆる個人の請求権そのものを国内法的な意味で消滅させたというものではございません》

《日韓両国間で政府としてこれを外交保護権の行使として取り上げることはできない、こういう意味でございます》
 
 個人が裁判所に訴訟を提起することまでは妨げられないものの、「補償問題は日韓請求権交渉で解決された」という結論は不動のものだ。

 市民団体の反日活動を文大統領はかつてのように後押しせず、抑制もしないが、彼らの振る舞いはさらに激しくなっている。

 任期内に慰安婦問題を解決すると宣言し、日本の輸出管理強化に“私たちは再び日本に負けない”と堂々と言ってのけた文大統領は、いまはどこにもいない。

 自ら広げた事態を収拾できず、当惑している顔だけが目に浮かぶようだ。

田裕哲(チョン・ユチョル)
日韓関係、韓国政治担当ライター

週刊新潮WEB取材班編集

2020年12月10日掲載

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