コロナ禍の「箱根駅伝」「春の甲子園」、箱根登山鉄道と阪神電鉄はどう対応するのか?

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 新型コロナウイルスの猛威が止まらない。

 11月21日、東京都は新型コロナウイルスの新たな感染者数を539人と発表。過去最多となる数字でもあり、3日連続で500の大台を突破したことで第3波の襲来は現実的になった。

 新型コロナウイルスの感染拡大は、飲食業界や宿泊業界に大きな影を落としている。密をつくることでビジネスモデルを成り立たせていた鉄道業界も総じて苦しい。鉄道各社は軒並み減収減益。新幹線などの長距離利用は言うまでもなく、日常的に使用される通勤・通学需要も激減している。

 特に、安定的な収入源だった通勤需要は企業がリモートワークの導入を進めたことで一気に減少した。リモートワークの定着によって、コロナが収束しても通勤需要がコロナ以前に回復する見込みは薄い。

 そんな中、鉄道各社は沿線で開催される大型スポーツイベントに期待を寄せる。年始に開催されるスポーツイベントで、もっとも注目されるのが東京箱根間往復大学駅伝競走(箱根駅伝)だろう。

 毎年、白熱したレースはテレビ視聴率も好調だが、その人気から沿道はランナーを応援する人出で埋め尽くされる。箱根駅伝開催時、沿道では約100万人が観戦・応援しているとも言われる。

 新型コロナウイルスの感染拡大によって、スポーツイベントの多くは開催中止もしくは大幅な縮小を迫られた。政府のGoToキャンペーンにより、スポーツイベントも少しずつ規制が緩和され、人が戻りつつある。

 そうした情勢を鑑み、関東学生陸上競技連盟は箱根駅伝の開催を決定。それでもコロナに配慮し、例年のような沿道での応援を自粛。無観客開催とした。しかし、箱根駅伝は公道を走るレースのため、公道を利用する一般人まで排除することは難しい。

「例年、箱根登山鉄道の沿線には多くの観戦者が詰めかけます。しかし、今年は主催者が無観客を打ち出しているので、例年のような多くの観戦者は来ないと考えていますが…」と言い淀むのは、箱根登山鉄道総務部の担当者だ。

 箱根登山鉄道は、小田原駅−強羅駅間を結ぶ登山電車や強羅駅−早雲山駅間を結ぶケーブルカーなどを運行している。通常なら、箱根湯本駅は1日に1600人前後が利用する。ところがレース開催日は、利用者が約1万3000人にも増える。

 それだけ駅の利用者が増えれば、当然ながら駅構内や駅周辺は混雑する。事故やトラブルも起きやすくなるだろう。箱根湯本駅の駅係員は、通常なら8人体制。2017年のレース開催日は、42人に増員して警戒にあたった。

 今年は海外旅行に出ることが難しい。そのため、例年ならハワイなどで年末年始を過ごす人たちが箱根に向かう可能性もある。前年より、箱根の旅行者が増える可能性は否定できない。

「現在、箱根駅伝における駅員の配置人数や警備体制は決まっていません。様子を見て、ということになるでしょうか」(同)

 箱根登山鉄道は、2019年10月に発生した台風19号で線路が被災した。長らく運休を余儀なくされたが、今年7月に復旧を果たしている。

 箱根登山鉄道は当初の予定よりも早く線路を復旧させたが、同線はアジサイが咲き誇る6月下旬が書き入れ時。線路の復旧はそれに間に合わず、アジサイのシーズンを棒に振った。それだけに、箱根駅伝に力を入れていたことは想像に難くない。

 苦しい台所事情を考慮すれば、箱根登山鉄道が箱根駅伝に期待を寄せるのは当然だろう。しかし、コロナの感染拡大の防止が叫ばれる中で、表立って箱根駅伝をPRすることは憚られる。

 スポーツイベントの中止・縮小のあおりを受ける鉄道会社は、ほかにもある。選抜高等学校野球大会(春の甲子園)がコロナで中止になり、全国高等学校野球選手権大会(夏の甲子園)が大幅に縮小して開催されたことは、阪神電気鉄道にとって大きな痛手だった。

 大会が開催される阪神甲子園球場は、阪神電鉄の甲子園駅が最寄り駅。野球が開催されない日の同駅利用者数は、1日平均で約5万5000人。しかし、大会期間中は多くの観戦者が駅を利用する。

「大会の開催時期は、特別ダイヤを組んで応対しています。通常は約10分間隔で特急を運行していますが、それらに加えて臨時特急も運行します。2019年の夏は、大会期間中に梅田駅発・甲子園駅行きの臨時特急を42本、甲子園駅発・梅田駅行きの臨時特急を35本、合計77本を増発しました。2020年の夏は『関係者以外の応援はなし』という取り決めになったため、特別ダイヤを実施していません」と話すのは、阪神電気鉄道経営企画部の広報担当者だ。

 このほど、高校野球連盟は2021年の春の甲子園を開催すると告知。2021年の春の甲子園では、コロナ対策として観客を1日2万人までに制限する。例年の観戦者は1日4万人前後だから、約半分の規模になる。

「今夏に比べれば、観戦者は増えることが予想されます。しかし、甲子園は各校が貸切バスで応援に駆けつけます。一般の観戦者が、どの程度まで増えるのかは現在のところ見当がつきません。今のところ、臨時ダイヤを組むかどうかまでは未定です」(同)

 第3波の襲来で、年始に人が多く集まることが予測される神社仏閣は参拝者の人数制限や露店営業禁止などの初詣対策をすでに発表している。

 鉄道各社は2020年度後半の経営状況が上向くとの予測を出していた。そうした見通しは、コロナ第3波によって打ち砕かれようとしている。

 コロナ禍は鉄道を減収減益に追い込むだけではなく、現場に大混乱をもたらす。鉄道のダイヤは、すぐに変更がきくものではない。運転士や車掌、駅係員、そして車両メンテナンススタッフなど、多くの人員を手配しなければならない。また、出番に備えて車両の準備も怠れない。

 常日頃、何気なく利用している鉄道は入念な事前準備によって滞りない運行を実現している。その裏には、多くの鉄道員たちの労苦がある。刻一刻と状況が変わるコロナは鉄道員たちを右往左往させている。そうした過酷な環境下にありながら、鉄道関係者たちは休まずに鉄道を動かし続ける。

小川裕夫/フリーランスライター

週刊新潮WEB取材班編集

2020年11月27日掲載

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