「斎藤佑樹」現役続行…すぐ首になる「ドラ1」、不振でも生き残る「ドラ1」の分かれ目

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 プロ野球も残すところポストシーズンだけとなり、ストーブリーグの話題が多い時期となってきた。中でも11月に入って多く聞かれるのが来季の契約を結ばない、いわゆる“戦力外”となった選手のニュースである。現役最年長の福留孝介や通算2000本安打を達成している内川聖一といった大物もその中には含まれており、今後の動向が注目を集めている。しかし、その一方で結果を残せていないにもかかわらず、なかなか戦力外とはならない選手も存在している。

 その代表格の一人が斎藤佑樹(日本ハム)と言えるだろう。プロ入り後、最初の2年間で合計11勝をマークしたものの、その後は故障もあって低迷。10年目の今年はプロ入り後初の一軍登板なしに終わり、過去5年間で見てもわずか1勝に終わっている。成績的には戦力外となっても全くおかしくないが、来季も日本ハムで現役続行となる見通しだ。

 プロ野球は実力の世界と言われているが、斎藤の例を見ても分かるように成績の良し悪しだけではない部分が存在していることは確かである。まず、大きいのがプロ入りした時のドラフトの順位だ。1位指名であれば契約金1億円ということも珍しくなく、球団として“大きな投資”をしていることになる。また少なくともプロ入り時点では高い評価を受けていた選手であり、簡単に見切ってしまっては割に合わないという計算が働くことは容易に想像できる。

 しかしながら、同じドラフト1位でプロ入りした選手でも斎藤のように長く生き残っている選手がいる一方で、早々に退団となるケースもある。統一ドラフトとなった2008年以降に1位指名でプロ入りした選手で、在籍年数が短かった選手を順にならべてみると以下のような顔ぶれとなった。ちなみにトレードでの退団は除き、あくまで自由契約および引退のみを対象としている。

北方悠誠(唐津商→2011年横浜1位):3年
野村亮介(三菱日立パワーシステムズ横浜→2014年中日1位):3年
竹下真吾(ヤマハ→2014年ヤクルト1位):3年
近藤弘樹(岡山商科大→2018年楽天1位):3年

甲斐拓哉(東海大三→2008年オリックス1位):4年
蕭一傑(奈良産業大→2008年阪神1位):4年
松本竜也(英明→2011年巨人1位):4年 ※野球賭博により契約解除
柿田裕太(日本生命→2013年DeNA1位):4年
藤原紘通(NTT西日本→2008年楽天1位):5年
川上竜平(光星学院→2011年ヤクルト1位):5年
古川秀一(日本文理大→2009年オリックス1位):6年
武藤好貴(JR北海道→2011年楽天1位):6年
横山雄哉(新日鉄住金鹿島→2014年阪神1位):6年

※2020年11月14日時点

 最も短いのは北方、野村、竹下、近藤の3年。北方は現在でも独立リーグでプレーを続けているが、野村と竹下は早々にユニフォームを脱ぎ、今オフに楽天を戦力外となった近藤は去就が決まっていない。そして、この13人に共通していることは「重複での1位指名ではない」という点だ。最初の入札で単独指名だったのも野村、甲斐、古川の三人だけであり、他の選手は「外れ1位」、もしくは「外れ外れ1位」でのプロ入りである。同じ1位でもやはり4球団競合となった斎藤と比べると、球団の扱いに差があったと感じずにはいられない。

 もうひとつ傾向として出ているのが選手の出身チームだ。特に影響があると考えられるのが出身高校、出身大学である。先述した13人の中では、川上の出身である光星学院(現八戸学院光星)は甲子園出場常連の強豪ではあるが、伝統的に強かった学校ではない。蕭の奈良産業大(現奈良学園大)、古川の日本文理大も強豪ではあるが、地方リーグのチームである。また、ヤマハや日本生命などは社会人の名門チームではあるが、出身高校をみると、柿田の松本工、竹下の八幡高も高校野球の世界では決して伝統的な強豪校ではない。

 球団側は、短い期間で戦力外としたことで、その選手の出身高校、出身大学との関係が多少悪化しても、それほど影響は大きくないと判断したとも考えられる。その証拠に日本のアマチュア球界で最も影響力のある東京六大学出身で、同じ期間にドラフト1位で入団した選手の在籍年数を調べてみた。

松本啓二朗(早稲田大→2008年横浜1位):9年
戸村健次(立教大→2009年楽天1位):10年
二神一人(法政大→2009年阪神1位):7年
大石達也(早稲田大→2010年西武1位):9年
伊藤隼太(慶応大→2011年阪神1位):9年

 最も短い二神でも7年の在籍となっている。ちなみに二神の一軍登板はわずか27試合で、1勝も挙げることはできていない。さきほど伝統校の出身でない選手に触れたが、入団1年目に5勝をマークした藤原が5年、入団4年目に60試合に登板した武藤が6年で自由契約となった点と比べると、二神が優遇されていたことがよく分かる。また、ある程度一軍の戦力とはなったものの、他の4人についても通算成績の割には長く在籍していたという印象が強い。

 このように実力の世界とは言われながらも、それ以外の要素も絡んでいるのがプロ野球の不思議なところでもある。学閥、人脈などといったところは少なからず一般社会とも共通している。しかしながら、最後に生き残るのはやはり力のある選手であることは間違いない。年々苦しい立場になる斎藤を救えるのも斎藤自身と言えるだろう。

西尾典文(にしお・のりふみ)
野球ライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年11月16日掲載

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