映画『日本沈没2020』 沈んだ先に“ディスカバー・ジャパン”か(星1つ★☆☆☆☆)

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日出ずる国

『日本沈没2020』も、難民化した歩とその家族が水と食料を求め東京を脱出するあたりまでは、これら災害映画の要素を踏まえながら、高速で展開する。ところが、それ以降、映画は主人公たちの“人間ドラマ”を軸にする。侵攻するゴジラのスピード、あるいはトライポッドから放たれるレーザーの速度を期待していた我々は、急につんのめってしまう。

 思えば――災害発生時、照明技師をしている歩の父は、新国立競技場で高所作業中だった。大揺れで足場は崩れ、父は命綱で宙づりにされてしまう。だが、宙ぶらりんになった父がどう、そのピンチを脱出したのか、は描かれない。映画の主題は「災害といかにして戦うか」ではないのだと、今になって気づかされる。これはパニックエンタテインメントではない。

 あとは積み重ねられていく出会いと別れのエピソードを、眺めているだけになる。無人のショッピング・モールで遭遇する元店長の老人、死者と生者をつなぐイタコ的存在が築いた「理想郷」で寝起きする住人たち……。災害ではなく人間を軸にするのであればそれでいい。

 しかし、そちらの描き方も惜しい。

 沈みかけた人々をボートに乗って救助に来るも「日本人しか救わない」と言う右翼的な人物を登場させる一方、生還した歩の弟・剛はeスポーツのオリンピック選手になり、国境を越えている。ウィーアーザ・ワールド? それともディスカバー・ジャパン? 歩も命は助かるが、彼女も彼女で「シズマヌキボウを“日出ずる国”に見出した」なんてことを言い出すから、最後まで混乱は解消しない。

 ラストで描写されるのは相撲、弓道、阿波踊り。富士山に桜。寿司、ラーメン。祭りの金魚すくい、花火――そんな日本は沈んだままで、いいと思う。

椋圭介(むく・けいすけ)
映画評論家。「恋愛禁止」そんな厳格なルールだった大学の映研時代は、ただ映画を撮って見るだけ。いわゆる華やかな青春とは無縁の生活を過ごす。大学卒業後、またまた道を踏み外して映画専門学校に進学。その後いまに至るまで、映画界隈で迷走している。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年11月13日掲載

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