九州北部豪雨を乗り越えて キュウリ農家の挑戦――かがやいてる、元気な農家

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 地震、台風と並び、近年、わが国で頻繁に発生し、多くの被害をもたらしている災害に、前線に伴う豪雨があります。昨年8月27日~28日には、最大1時間に100ミリを超える記録的な豪雨が九州北部を襲い、各地で冠水・浸水被害が起こりました。佐賀県杵島郡大町町では、鉄工場が浸水し、油が流出。その周囲1キロにわたり、住宅や農地に流れ込むという被害も生じています。

 大町町でキュウリのハウス栽培などを手掛けていた鵜池幸治さん(35)も、その被害を受けたひとり。「ちょうど収穫が始まったところでした。1週間くらいは、頭の中が真っ白でした」と当時を振り返ります。水やりなどを自動制御できるハウスの再建費は約3千万円。油が沈んだ土も取り換えなければ農業は再開できません。結局、代々受け継いできた農地を諦め、来年7月頃を目途に町内に整備される園芸団地での営農再開を目指すことになったのです。

「自分たちも被害を受けているはずのJAの部会の仲間が、泥の掃き出しやハウスの撤去に汗を流してくれた姿を見て、前を向いていかなければ、と気持ちが切り換えられ、奮い立った」という言葉が心に響きます。

 地元の農業高校を卒業後、県立農業大学校でさらに2年、野菜栽培を学んだ鵜池さんは、20歳で実家近くの田畑で就農します。以来、父親の隆幸さん(70)と競うように、キュウリ栽培の腕を磨いてきました。農大では年20日の農家実習があり、そこで一人の篤農家と出会います。新規就農の養成所であるJAさがトレーニングファームの講師もされている生産者の方です。「キュウリの見方から農業の考え方まで、眼を見開かされました」と鵜池さんは話します。

 減農薬栽培に取り組むなど、探求心旺盛な鵜池さん。そんな折、今年1月、佐賀市にJA全農の大規模実験施設「ゆめファーム全農SAGA」がオープン。栃木県のトマト、高知県のナスに続く「ゆめファーム」第3弾のプロジェクトで、しかも栽培作物はキュウリ。団地で再出発するまでここで従業員として働くと鵜池さんが決めたのは、言うまでもありません。同施設は、隣の佐賀市清掃工場から生じる排熱蒸気と二酸化炭素を利用する環境制御型ハウスでもあり、約1ヘクタールのハウスに土耕栽培区とロックウール養液栽培区が併設された軒高5メートル・オランダ式の鉄骨ハウスとなっていたからです。

 トマトなどで普及している養液栽培ですが、キュウリの場合、個人の農家での導入例は稀。ハウスで作業中の手を休め、「僕も、最初は懐疑的でした。しかし、実際、経験してみるととてもポテンシャルが高い」と鵜池さんは明かします。これまで土耕栽培一筋だった鵜池さんも、「養液栽培は、データをきちんととれば、作業を単純化しやすいメリットがある。どうせなら、新しいことにチャレンジしてみたい気持ちもあります」と、今は養液栽培での営農再開に心が傾いているようです。

 鵜池さんは、「就農時、JA青年部で一番若かった。その後、地域には若い新規就農者が随分と増え、気が付けば中堅の立場。営農再開では、ここで習得した技術を最大限に活かし、地域を引っ張っていきたい」と誓います。困難を肥やしに鵜池さんが畑に実らせたキュウリを食べるのを楽しみに待ちたいと思います。

 JAさがは、2007(平成19)年4月、佐賀県内の8JA(佐城・佐賀市・諸富町・富士町・さが東部・神埼郡・佐賀みどり、白石地区)が合併し、発足。同年10月にはJA佐賀経済連の権利義務も包括継承し、全国でも有数規模のJAとなった。佐賀県は、玄界灘と有明海に面した温暖で肥沃な大地を豊かな水が潤す、古くから農業が盛んな地帯だ。

 米は品質・食味とも優れた品種の「さがびより」を中心に栽培、野菜類は全国2位の出荷量を誇るタマネギをはじめとして、キュウリ、アスパラガス、れんこんと多彩。温州みかんやイチゴなどの果物、葉の形が丸まっていることから玉緑茶と呼ばれる嬉野茶、そして畜産では、全国屈指のブランドの佐賀牛がある。JAさがの大島信之代表理事組合長が言う。「佐賀県は圃場整備率や米麦共同乾燥調整施設の普及率が高い。水田では二毛作が一般的で、耕地利用率も143・7パーセントと全国で1位」

 そんな佐賀県の農業だが、令和元年は自然災害に苦しんだ。約6800ヘクタールの農地が被害を受けた8月末の九州北部豪雨。そして9月22日には、台風17号の通過に伴い、有明海沿岸の農地が塩害に見舞われたのである。「農業被害は併せて150億円近い額に上る。米の作況指数は58と全国のワーストでした」と大島組合長。

 なかでも、大きく報じられたのが、豪雨時、油の農地流入という深刻な事態に至った大町町の被害。

「油に浸かった稲はJAや県の職員が対応し、すべて刈り取って焼却した。出来得る限り、農地に油がしみ込まない手立てを打った。幸い、県の土壌検査で農地の99パーセントは次期作影響なしという結果となり、今年作付けできたのは、何よりだった。全国から義援金をお送りいただいた方々、ボランティアに来てくださった方々には、心から感謝申し上げます」。佐賀県の農業は、輝きを取り戻す道を力強く歩んでいる。

村上佳菜子の目
キュウリは、トマトやナスと並び、とてもなじみのある野菜。私の家の冷蔵庫も常にキュウリが入っています。キュウリの栽培現場を見たのは今回が初。大きな葉とツルの間に咲く黄色い花が印象的でした。「ゆめファーム全農SAGA」で鵜池幸治さんたちが育てたキュウリは、特別です。とても大きくみずみずしいのに驚きました。鵜池さんは、あれだけの被害を受けたのに、すぐに立ち直って別の農地で営農を再開することを決意。しかも、それまでの期間を無駄にせず、新しい栽培方法の習得に努められている。その前向きな姿勢、私も見習いたいと思います。

[提供]JAグループ [企画制作]新潮社 [撮影]荒井孝治 [ヘア&メイクアップ]宮崎睦 [スタイリング]柳翔吾