予測不能なホラー「恐怖新聞」に夢中 急に時代劇に転換する演出の妙

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 五十路に近づき、私も大人になったと思う。着々と苦手な分野を克服しつつある。食わず嫌いだったゾンビ系も、「ゾンビが来たから人生見つめ直した件」「キングダム」「ウォーキング・デッド」のお陰で視聴可能に。残るはホラー&スプラッター系と思っていたところ、最適な作品が突如浮上。2016年から東海テレビが頑張っている割に、なかなか認知されないオトナの土ドラ枠の「恐怖新聞」である。

「ああ、事件や事故で死ぬ人の情報が書かれた新聞が届くっつう、あの有名なアレね」なんて軽い気持ちで観始めた。つのだじろうの漫画から入った筋金入りのホラー系玄人にとっては、目を引くものではないのかもしれない。が、ど素人の私はいちいち怖い。主役の白石聖が血しぶきを浴びまくり、口から髪の毛、血のシャワーと定番であろう映像にもいちいちビクつく。身の毛もよだつ怪奇現象や惨殺シーンで不随意筋を刺激され、正直、疲労困憊なのだが、引き込まれていく。

 たぶん「恐怖新聞は他の人には読めない」「受け取るたびに100日寿命が縮み、やがて死ぬ」「他の人に契約を移すためには、自筆のサインが必要」「死んだら前の受取人に戻る」などの仕組みが巧妙だから。自己犠牲では終わらせることができないジレンマがある。命惜しさに善人ではいられないところに、本性というか人間性が出るわけだ。

 母役の黒木瞳の謎の狂気や歪んだ正義感も空恐ろしいし、白石をまんまとハメた前の受取人役の猪野学も得体のしれない恐怖、そして憐憫(れんびん)を煽る適役。恐怖新聞の記事の通り、パイプで串刺しになった父役の横田栄司は、元役者という役どころで、迫力ある死に際を見せつつ、謎の恨み節を遺す。彼氏の佐藤大樹は、白石の親友・片山友希とうっかり寝ちゃうほど弱く、刑事の駿河太郎は金目当てに恐怖新聞を利用する下衆だ。

 そして、第5話の冒頭で混乱した。確か先週、白石は嫉妬した片山にチャリのブレーキに細工されて、車に轢かれそうになったはず。ところが画面は急に時代劇。「え? 別のドラマか?」「松竹制作だから、コロナ禍で空きが出た撮影所を有効活用しやがったか?」と頭の中は疑念と憶測に満ちた。「ん?」が40分以上続き、最後の最後で「!」に変わった瞬間、快感を覚えた。

 怪奇現象の解明はさておき、前世から連綿と続く因果応報とわかり、黒木と横田の不穏な言動の謎もとけた。アマビエブームで妖怪頼りの今、牛の体に人の頭をした妖怪「件(くだん)」も登場。うまいことできてるわぁと感心しまくったのである。定番と思い込んだ私も浅はかだが、予測不能な舞台転換という演出に心掴まれた。

 そうそう、最大の功労者はマッシュルームボブの坂口涼太郎だ。現代版の白装束で不気味な笑顔、異世界へ誘う鬼形礼なる人物を体現。坂口の持ち味はコミカル・マイペース・ジェンダーレスだが、ヒトにあらずの異形も追加。絵に描きたい顔ナンバーワンでもあり。

 スルーしようと思って全話録画していなかった自分を今猛烈に恥じております。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビ番組はほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2020年10月15日号掲載

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