「働かざる者たち」「レンタルなんもしない人」…テレ東が深夜ドラマで描くダメな人達

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 ドラマの主人公は立派な人ばかり。剛腕銀行員、スーパー家政夫、勇敢な刑事…。だが、テレビ東京の深夜帯ドラマは違う。「働かざる者たち」(水曜深夜0時58分)と「レンタルなんもしない人」(同0時12分)は愛すべきダメな人に光を当てている。どちらも9月30日に最終回を迎える。

 ダメな人にも光を当て、しかも温かいのが、テレ東の深夜ドラマの伝統である。

 放送中の「働かざる者たち」の主人公・橋田一(濱田岳、32)もダメな人。毎産新聞社に勤務し、技術全般を担当するシステム部に所属しているが、やる気はほとんどない。自分は新聞社の裏方であるという意識が強く、どこか卑屈になっている。

 自分も主役になりたいという思いから、副業でウェブ漫画を描いているが、評判はイマイチ。アルバイト感覚で描いていて、真剣になれていないからだ。

 橋田を取り巻く社内の先輩たちはもっと酷い。勤労意欲ド底辺の人たち。彼らを紹介する形で物語は進行する。

 まず技術局工程部員の八木沼豊(津田寛治、55)。新聞は配達される地方によって紙面が違うため、それを管理することなどが仕事だが、コーヒー片手に一日中社内を徘徊し、雑談にふけるばかり。

 ところが、本人は悪びれず、それどころか開き治る。

「俺は炭鉱のカナリアだ。俺に居場所があるうちは、この会社には余裕がある」

 定時になると速攻で退勤し、キャバクラか合コンへ。筋金入りの給料泥棒である。

 もっとも、八木沼の本音が分かると、不憫になる。同期が次々と出世するのに、平社員のままだから、疎外感を抱き、淋しいのである。劣等感もあるから、それを隠すために軽薄な自分を装っていた。

 八木沼に甘えるなと言うのは簡単だが、むしろ周囲の出世を平然と見ていられる人のほうが少数派ではないか。日本は立身出世主義が染みついているので、出世しなかった人は肩身の狭い思いを強いられやすい。それによってダークサイドに堕ちる人もいる。

 普通のドラマなら、八木沼みたいな人間の心情に寄り添わない。サラリーマン失格の烙印を押してお終いだろう。ダメな人に温かいテレ東の深夜ドラマならではのフォローである。

 編集局沼ヶ原通信部の記者・堀孝一(浜野謙太、39)もあきれるほど働かない。自宅兼通信部は地元住民の溜まり場で、連日酒を酌み交わしている。

 堀は20年前まで政治部記者だった。だが、当時の政治部デスクで現在は技術局局長の多野和彦(升毅、64)から「スクープ出せ、こらぁ!」と、連日のように恫喝され、精神の安定を失い、思わず裏の取れていない組閣リストを記事にしてしまった。無論、大誤報に。そのペナルティーで左遷された。新聞界ではあってもおかしくない話だ。

 地方で世捨て人のようになった堀。ところが、天敵である多野から連絡が入る。堀とパイプのある政治家が新党を結成する噂があるので、取材しろというのだ。結果を出せば本社に復帰させるという。

 多野も編集局に戻れる。これが一番の目的である。調子のいい話であるものの、これも新聞界なら考えられる話。おそらく違う業界でも似たようなケースはあるだろう。

 堀はどうしたかというと、一度は本社に戻る道を選ぼうとしたが、最終的には記者を続ける。住民と苦楽を供にして、それを伝える道を選んだ。

「やっと気づいたよ。大きい事件だろうが、小さな情報だろうが関係ない。人の人生に光を当てる記事にこそ俺たち記者は魂を込めるべきだって」

 もう堀は世捨て人ではない。本社の最前線でバリバリやるのが幸せとは限らないことに気づいた。また本社で働き、地位を得るほうがサラリーマンとしては偉いのかも知れないが、人として偉いわけではない。

 堀の生き方をこのドラマは肯定的に描いた。やはりテレ東の深夜ドラマはダメな人にやさしいのである。

 このドラマは新聞社という組織を唸るほどリアルに描いているのも特徴だ。システム部員がドラマの主人公になったのは初めてに違いない。

 八木沼は工程部員だが、この部署はドラマに出たこともないはず。「押し紙」も登場する。これは間違いなく初めてだ。

 押し紙は新聞社のタブー。クロスオーナーシップ(同一資本が新聞もテレビも経営すること)制下にある民放ではまず扱えない。ニュースですら難しいだろう。それをドラマで取り上げられたのは、テレ東の親会社である日本経済新聞社がおおらかである表れか。それとも日経が押し紙と無縁というメッセージか…。

 押し紙とは新聞販売店に対し、実際に配達するより多く新聞を押し付けること。すると、新聞は発行部数が維持できる。押し紙を引き受けてくれた新聞販売店には補助金を出す。配達先のない新聞は捨てられる。ただし、もちろん禁じ手だ。

 これを使ったのは販売一部部長の風間敦(柳沢慎吾、58)。働かないのに部長まで出世できたのは押し紙のおかげ。

 だが、やり過ぎたらしい。風間は橋田に対し、過去の販売部数、販売店への送り部数、補助金額などのデータをサーバーから全て消すように命じた。メチャクチャである。自分の悪事を全て闇に葬るつもりだった。

 もちろん橋田は拒否したが、風間は「言われたこと黙ってやれよ!」と脅す。2人の後を着けていた八木沼が橋田を助け、事なきを得たが、風間は度しがたいダメ人間だった。

 ただし、風間も元からダメだったわけではない。元は記者志望の正義感に燃えた青年だった。だが、夢がかなわなかったので、今度は販売成績を上げようと懸命になった。風間がダメになった背景にも立身出世主義がある。

 風間のような犯罪者に近い人間も単なる悪党として一刀両断せず、転落の軌跡まできちんと描くのだから、やはりテレ東の深夜ドラマはダメな人に温かいのである。

ドラマが問うもの

「レンタルなんもしない人」は実在の人物に基づくドラマ。なんもしない人・森山将太を増田貴久(34)が演じている。

 将太のレンタル費用は交通費および飲食代だから格安。ただし、ごく簡単な受け答えを除くと、本当になんもしない。妻・沙紀(比嘉愛未、34)と幼い子がいるが、貯金を切り崩して生活している。

「働かざる者食うべからず」という考え方がDNA組み込まれているらしい日本人にとって、将太はダメ人間扱いされるはず。劇中でもエリート営業マンの神林勇作(葉山奨之、24)からこっぴどく批判された。

 けれど、将太には依頼が相次ぐ。仕事でトラブルがあり、出社するのが怖いから一緒に付いてきてほしい人、思い出のレストランに同行してほしい人…。

 タイトルだけ見ると、コメディと誤解する人もいるかもしれないが、実際にはシリアス。考えさせられることが多い。

 携帯電話やスマホを大半の人が持ち、いつでも誰かとつながれる時代になったが、それで孤独が解消されるわけではないだろう。どんな人にも「誰かが側にいてくれたら」と思う瞬間があるのではないか。

 将太は間違いなく人の役に立っている。だから世間一般の見方がダメな人であろうが、本質はダメ人間ではないはずだ。

 テレ東の深夜ドラマはさまざまなことを問い掛けてくる。「偉い人と偉くない人の違いは?」「ダメな人とダメじゃない人の区別って?」

 テレ東深夜ドラマの魅力は「飯テロ」と呼ばれるグルメものばかりじゃない。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。1990年、スポーツニッポン新聞社入社。芸能面などを取材・執筆(放送担当)。2010年退社。週刊誌契約記者を経て、2016年、毎日新聞出版社入社。「サンデー毎日」記者、編集次長を歴任し、2019年4月に退社し独立。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年9月30日掲載

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