組織に1人はいる「働かないやつ」の人生模様を描き切る力作 …いや、それにしても働けよ!

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 組織の中で働かない人間は一定数いる。特に中年以降の人で、出世もせず、貢献するでもなく、若手のお手本にもならず、怠惰か愚鈍か放蕩者扱い。古くは窓際族、今は妖精さんと呼ばれる。ドラマの主人公になると、実は陰で八面六臂の活躍をする正義の味方、となる。いや、働かない人はマジで働かないから! どんな会社でも省庁でも役所でも、必ずいるぞ、働かない奴。大きな組織になるほど、妖精率も高くなるぞ!

 なんて常日頃思っていたので、テレ東の「働かざる者たち」はストンと腑に落ちた。働かない人々を美化せず描く画期的なドラマだ。

 舞台は大手新聞社。技術局に勤める橋田一(濱田岳)は入社7年目のシステムエンジニア。同期の新田(古川雄輝)は既に政治部のエースとして活躍。校閲部の鴨志田(大水洋介)は我が道を行くマイペース。同期3人で居酒屋に集まり、愚痴るものの、濱田は働く意義を見出せず。実はこっそり「ケツ太郎」という4コマ漫画をネットに投稿しているが、読者は一向に増えず。

 7年も経ってモラトリアムかよ、と背中をしばきたくなるような、くすぶる主役を濱田が適温で演じている。

 濱田はベビーフェイスにエンジェルボイス、でも、そこはかとなくおっさんも含むハイブリッド俳優で、日常における葛藤や逡巡が実にうまい。周囲のお膳立てが必須の主役よりも、地味で華のない主役こそ力量が問われる。今回も完璧だ。

 で、肝心の働かざる者だが、こちらも手練れ揃い。各部署を回っては勤勉な者を茶化し、合コン三昧を自慢して厄介者扱いの八木沼(津田寛治)。昔は校閲部の雄だったが、現校閲部長(矢柴俊博)に出し抜かれ、今じゃウィキペディアをコピペしてヘラヘラしている、通称ウィキおじさんの三木(梶原善)。印刷工場内でポケモンGOをやって徘徊する印刷部の山中(甲本雅裕)。政治部から飛ばされて山奥の通信部へ、昼間から釣りと酒宴に明け暮れるが地元民に慕われる堀(浜野謙太)。

 そしてどうやらラスボスは、働かないのになぜか出世した風間(柳沢慎吾)だそう。

 働かない諸先輩方にはそれぞれ裏事情があり、心の機微に触れて絆(ほだ)されて……いや、それにしたって働けよ! と、毎回濱田がツッコむので安心する。ほっこりエエ話風味にもっていきがちなところで、ちゃんと軌道修正。自浄作用がある。

 この新聞社の最大の問題は、このおじさんたちが高給取りである点。赤字転落の危機で、部署も子会社化で切り離されるというのに。

 最も深刻で最凶の働かざる者は、池田エライザ演じる人事部の川江だ。厳しいダメ出しもするが、濱田の漫画の愛読者。最低限のエネルギーで勤務し、サボる言い訳は堂々たるもの。「私、高卒なんで。頭よくてお給料も高い大卒の皆さんがやってくださいよ~」と言い切る。鉄面皮だが、賃金格差を皮肉る姿は清々しい。出世争いの男社会を嘲笑う象徴的な存在でもある。

 一種の妖精図鑑に心は和む。争いに敗れた者にも歴史あり。勇ましい武勇伝や下剋上だけじゃ疲れるしね。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビ番組はほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2020年10月1日号掲載

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