「超巨大台風」に備えてできることは? タワマンの弱点、高級車より電気自動車

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タワマンの弱点

 台風10号は襲来前から「百年に一度の大雨」として厳戒態勢が敷かれていた。今回は被害を最小限に抑えることができたが、近年強力化している台風が東京を襲った場合、何が起こるのか。高潮の被害などを専門家にシミュレーションしてもらった。

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 18年3月に東京都が公表した高潮浸水想定区域図によると、東京は水害に弱い都市であるため、超大型台風が直撃した場合、東京23区のうち17区で浸水被害が生じるのだという。

 とりわけ“海抜ゼロ地帯”と呼ばれる江東区、江戸川区、葛飾区、墨田区、足立区では浸水が10メートルにも及び、排水には1週間以上の時間を要すると見込まれている。

 一方、湾岸部は高潮の直撃を受けるが、豊洲や芝浦はウォーターフロントとして宅地開発され、人気のタワマンが乱立している。建物は堅牢ゆえ高潮に耐えられても、昨年の台風による浸水で電源を喪失するなど弱点を露呈した。

 住宅ジャーナリストの榊淳司氏によれば、

「国交省は、7月17日より宅地建物業法施行規則を改正して、不動産取引の重要事項説明の中にハザードマップ上の所在地を盛り込むことを義務付けました。これまでは不動産会社の対応に一任されていたものが、『必ず説明しなさい』と明確化されるようになった。これは明らかに去年の台風19号の影響でしょう」

 事実、川崎市のハザードマップでは、タワマンが浸水被害にあった武蔵小杉駅周辺は真っ赤に塗られ、〈洪水浸水想定区域(多摩川水系)〉に指定されている。

「物件によっては、水害リスクに備えるような対策を取り始めています。マンションなら電気室の水密工事を施したり、地下から上層階へと移設したり、建物ごと停電しないように手を打っているところもあります。ただし、一度でもタワマンに“事故物件”というイメージがついてしまうと、実際の不動産価格が下がる方向に圧力がかかっていくのは否めません。武蔵小杉の当該物件は、昨年の水害以降、ほとんど売り買いされていませんし……」

被害額115兆円、死者8千人

 仮にハザードマップで自宅が浸水区域を外れていても、都心の勤務先が被害に遭わないとも限らない。

 『首都水没』の著者で、元東京都江戸川区土木部長の土屋信行氏が言う。

「日本有数のオフィス街で大企業の本社機能が集中する丸の内地区のある千代田区、銀座を抱える中央区、港区なども浸水して品川駅や新橋駅も1メートル以上冠水します。土木学会は『東京湾巨大高潮』という被害シミュレーションにおいて、14カ月の累計被害額を115兆円と推計。死者も8千人と想定しました。まさに国難というべき大災害です」(同)

 防災システム研究所の山村武彦所長はこう話す。

「実は東京も歴史上、強烈な台風に襲われたことがあるんですよ。1856年の『安政の江戸台風』です。暴風雨と高潮で甚大な被害が出ました。残っている『かわら版』には死者10万人以上と書かれていますが、その前年には地震が起きて死者は4千人から1万人とされています。これらの自然災害と凶作が重なり徳川幕府が弱体化して、11年後には大政奉還が行われた。過去の事例を見れば、台風には時代を変えてしまう力があるのです」

「逃げるが勝ち」

 圧倒的な自然の脅威の前では、現代に生きる我々とて裸同然。抗うことはできないが、生き残る術はないのだろうか。

「地震と異なり台風は事前に予測ができます。とにかく命を第一に逃げるが勝ち、を念頭に行動すべきです」

 そう述べるのは、防災・危機管理ジャーナリストの渡辺実氏だ。

「台風にせよ豪雨にせよ、できる限り早くRC(鉄筋コンクリート)構造の建物の3階以上に避難するのがいいでしょう。それを超える高潮や浸水は考えづらい。また安全な場所へと避難する場合も、高潮の場合は車のエンジンなどに海水がかかって通電しやすくなり、『塩害火災』が起こる可能性もあり、注意が必要です。自宅を出て避難する場合は、ブレーカーを落とすのはもちろんのこと、車も空港やショッピングモールにあるような立体駐車場に駐めることができれば安心です」

高級車より電気自動車

 ちなみに、渡辺氏は「停電対策」も兼ねて電気自動車を愛用しているそうだ。

「夏場に停電すれば、エアコンや扇風機が使えず熱中症になりますし、冷蔵庫はダメになって食中毒のリスクも高くなる。昔は小型の発電機がなければ停電を凌げませんでしたが、エンジン搭載型の電気自動車なら移動と発電にも使えて一石二鳥。ガソリンでエンジンを駆動すると発電してバッテリーに充電、1500ワットの電力を供給できるんです。実験のつもりで自宅へ電気を引き込み、クーラーと冷蔵庫を一つずつ稼働させてみたところ、ガソリン満タンで10日間もちました。下手に高級外車などを買うより、この手の自動車を買った方が地震への備えにもなりますよ」

 街中では看板やゴミなど凶器となって飛来してくる物が多い。安全な場所にある強固な建物で停電対策もできていれば、そこにとどまる選択も可能だ。疫病が流行る中での台風直撃で明らかになったのは避難所の不足だった。ソーシャルディスタンスを取ることが前提になり、各自治体では定員が半分以下となり、隣町への移動を余儀なくされた被災者も続出したという。

 長崎県・佐世保市災害警戒本部の職員に聞くと、

「佐世保市は、先の6月豪雨で、コロナ禍における避難指示を全国で初めて経験した自治体です。市全体で25万人が避難対象ですから、事前に『避難所だけが避難所ではない』とアナウンスして、県外の親戚や友人宅、ホテルなどへ移ることもお願いしていました」

 この点について渡辺氏も、

「台風は巨大化し地震もいつ来てもおかしくない上に、このコロナ。行政も避難所や対応する職員を増やすのは容易ではありませんから、我々は公的な避難所以外の止まり木を探しておく必要がある。『分散避難』という考え方ですが、事前に親族や友人にお願いしたり、ホテルなど複数の候補を用意しておけば安心です」

週刊新潮 2020年9月17日号掲載

特集「今後は地獄が日常の光景に…『“伊勢湾級”台風』が首都圏直撃ならどうなる!?」より

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