巨人、新戦力「北村拓己」の知られざる星稜・亜大時代 大学3年がターニングポイント

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 今シーズンの読売ジャイアンツは積極的な若手の起用が目立っている。例えば、野手陣ではプロ初ヒットを記録した選手が4人もいる。捕手の岸田行倫、内野手の北村拓己、そして外野手の松原聖弥、イスラエル・モタだ。

 なかでも背番号52という大きな数字を背負いながら、開幕一軍を勝ち取り、以後1度もファームに落ちず戦力となっている“いぶし銀”の選手がいる。ブロ3年目の内野手・北村拓己だ。8月4日の対阪神戦ではプロ初本塁打を放ち、試合後には元・アイドリング!!!のメンバーで現在は実業家の伊藤祐奈と1月に結婚していたことと、試合前に第一子となる長女が誕生していたことを発表するなど、プライベートでもファンを驚かせた。今回はそんな北村の経歴を詳細に探ってみたい。

 北村は身長181センチ、体重87キロという体格を誇る右投げ右打ちの内野手である。ライナー性の打球が売りの好打者で、守ってもサードとショートを中心にその強肩を生かした堅守が魅力だ。17年のドラフト4位で亜細亜大から入団したが、高校は石川県の強豪・星稜である。つまりあのゴジラ松井秀喜の後輩にあたるワケだ。そしてなんとその名門で入学直後からサードのレギュラーを任されることに。このときショートを守っていたのが2学年上の兄・祥治だった。

 しかし兄と共に甲子園に挑んだ夏は県予選準決勝で金沢の前に2-5で敗退して夢破れることとなる。同年秋からは1番打者に起用され、守備位置も兄の守っていたショートへとコンバートされた。

 この新チームでは秋は県予選準々決勝で金沢学院東に7-8で、夏の県予選は決勝戦で遊学館に0-6で敗退し、惜しくも甲子園に手は届かなかったものの、夏の県予選では3番に座り、18打数5安打3打点、打率2割7分8厘という成績を残している。この直後の2年秋に結成された新チームでは主将に就任することとなる。秋季県大会ではその打棒でチームをけん引、5試合でなんと18打数11安打と打ちまくった。 打率6割1分1厘をマークしただけでなく、二塁打1本、三塁打4本の計5長打を放ち、その長打力を見せつけている。チームも決勝戦で金沢学院東を9-4で降し、見事優勝を果たした。

 だが、続く北信越大会では準々決勝で上田西(長野)の前に3-4で惜敗し、またも甲子園への道は閉ざされてしまうのである。こうして北村にとって3年夏が文字通り甲子園への“ラストチャンス”となったのであった。

 ところが、肝心な最後の夏の県予選で北村は大不振に陥ってしまう。準決勝の寺井との一戦で、外角ストレートを右中間に運ぶタイムリー三塁打を放つなどしたが、最終的にはとても3番バッターとは思えないほどの低打率で、1割7分6厘という大ブレーキであった。

 それでもチームは予選を勝ち進んだ。決勝戦では前年完敗した遊学館相手に5-2でリベンジし、最後のチャンスで北村は見事に甲子園出場を勝ち取ったのである。

 注目の夏の甲子園初戦の相手は、徳島県の古豪・鳴門だった。試合は中盤まで1-1と緊迫した投手戦が展開されたが、7回裏に満塁ホームランを打たれるなど一気に8失点を喫し、勝負が決まってしまった。

 それでもこの試合、北村は1番・ショートで出場し(恐らく県大会での不振もあって、3番から1番に打順が繰り上がったものと思われる)、強肩を生かした遊撃守備で観客を魅了した。さらに9回表には甘いストレートながら甲子園左中間スタンドへ3ランを放って意地を見せている。甲子園での最終的な成績は4打数2安打1本塁打3打点であった。 こうして高校3年間の試合をすべて終えた北村であるが、高校卒業後は硬式野球部が東都大学野球連盟に所属する亜細亜大学へと進学することに。

 亜大の野球部では’14年の1年秋からリーグ戦に出場しているが、レギュラーの座を掴んだのは’16年の3年春のことである。3番・サードに起用され、32打数11安打で打率3割4分4厘をマークした。これは打撃成績ベスト10のうち6位に入る好成績であったのだ。また、本塁打は0だったが、打点も7記録し、チームのリーグ戦優勝に貢献している。

 この春季リーグ戦が北村にとって飛躍のきっかけとなった。続く秋季リーグ戦では44打数18安打1本塁打12打点の大活躍で、打率はなんと打撃十傑のなかで2位となる4割9厘を記録したのだ。これは北村の大学時代の自己最高成績で、ベストナインも初受賞したほどだった。

 なかでも特筆すべきは開幕戦の対専修大との1回戦だろう。現在は四国独立リーグの高知ファイティングドックスで活躍する平間凛太郎からレフトスタンドへの1号逆転3ランだろう。甲子園でのホームラン同様に、甘く入った球ならスタンドイン可能な長打力を見せつけた。 また、コンバートを視野に入れてショートでテスト起用された最終カードの対国学院大3連戦では計11打数7安打4打点という活躍ぶりであった。

 北村にとってこの大学3年時は大きなターニングポイントになったといえる。なんと大学日本代表入りを果たしたのだ。7月に行われた日米野球では優勝を経験しているが、そのチームにあって、主に6番・ファーストで全5試合にスタメン出場し、第1戦ではショートへの渋い内野安打を放っている。

 そして最終学年となった4年時には春から主将を務め、主力として春秋通算で22安打1本塁打を放ち、15打点をマークしている。最後の秋のリーグ戦ではショートでは初、自身としては2度目となるベストナインにも選出されたほどだ。

 結局、大学時代は通算で1部リーグ戦53試合に出場し、163打数52安打で打率3割1分9厘、2本塁打、35打点、10盗塁という成績を残している。

 そんな北村がプロから評価された点はやはり強肩好打の内野手だったということだろう。守ってはサードだけでなくショートも守れることを証明したが、その遊撃守備でも遠投100メートルという強肩を生かし、深めの守備位置から素早く安定したノーバウンド送球を披露し、打っては鋭く振り切るスイングからライナー性の打球を弾き返し、逆方向にも長打を放てる魅力がある。

 また、北村は右打者だが、50メートル6.3秒という脚力で、一塁への到達タイムが約4.5~4.6前後である。 加えて走塁判断にも優れているため、単打を長打にするケースもしばしばあった。

 この北村のポテンシャルについて、とある読売のスカウトも「守備のフットワークが良く、サード・ショート両方守れる強肩強打の内野手」と絶賛していた。その読売に入団後は1年目に代打で1打席だけ1軍の試合に出場したほかは2軍暮らしが続いた。それでもファームでは109試合に出場し、打率2割7分、6本塁打をマークしている。

 2年目の昨季は1軍で5試合に出場し、特にプロ初スタメンとなった試合では1軍初盗塁もマークしている。一方、2軍でも112試合に出場し、107安打8本塁打を放って打率2割9分を記録している。さらに選球眼が優れていることの証明なのだろう。出塁率は4割1分4厘という高い数字を残し、最高出塁率のタイトルを獲得するに至ったのだ。

 そして迎えたプロ3年目の今シーズンは、オープン戦で12試合に出場。15打数5安打で打率3割3分3厘、2打点という数字を残している。

 ただ、見逃せないのは6四死球も選んでいる点だ。これによって出塁率は驚異の5割2分4厘をマークしたのだ。 特に3月8日の対阪神タイガース戦ではスタメン起用で全4打席すべてで出塁しているが、四球2つと長打2本と開幕一軍へ格好のアピールとなったワケである。

 守ってもショート、セカンド、ファーストと内野の複数ポジションをこなせることを証明している。こうして開幕1軍を勝ち取った北村だが、開幕カードの対阪神戦の3戦目で待望のプロ初安打を放っている。4回裏2死二、三塁のチャンスで代打で登場し、左腕のガルシアからレフト前に運んだ。これが適時打となって、プロ初打点のおまけもつく形となった。

 そのままセカンドの守備につき、5回表にはショートを守る坂本勇人と併殺を完成している。さらにこの翌日には1番・セカンドでスタメン出場し、決勝打となる二塁打を放つ活躍をみせ、初のお立ち台にも登った。

 最近の試合ではベンチを温めることも多いが、複数ポジションを守れるユーティリティープレイヤーとして、もはや一軍にとっては貴重な戦力だ。スタメン起用の際は大暴れしてくれることだろう。

上杉純也

週刊新潮WEB取材班編集

2020年9月8日掲載

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