傷ついた女を妖怪が救済「妖怪シェアハウス」は脇役のコメディスキルが高すぎる

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 鍼と筋トレ以外、ほぼ外出せず。人に会わず、猫2匹と過ごし、締切に追われ、米国産長編大作のゾンビドラマを延々と観る生活が続いている。心が殺伐として、眉間に深いシワが永住しそう。そろそろ注入しないとまずい。ボトックスではなく、顔の筋肉を緩めるドラマを。今夏の掘り出し物「妖怪シェアハウス」(テレ朝)が、想定外に笑えて役立つ。

 主役は小芝風花。クズ男にダマされ、職も家も貯金も、そして自信も主語も失ってしまった女性だ。行き倒れた彼女を助けたのは、神社の一画に住む妖怪たち。クズ男に恨み節のお岩さん(松本まりか)、面倒見のよい座敷童子(池谷のぶえ)、飄々として達観のぬらりひょん(大倉孝二)、酒飲みで女にモテるがトラウマもある酒呑童子(毎熊克哉)。幽霊も精霊も雑にまとめて妖怪扱いだが、とにかく陽気な彼らの家に小芝が居候するところから物語は始まる。

 一歩引きつつも空気をまろやかにできる、脇役スキルがハイレベルな俳優しか出てこないので、間合いや丁々発止が実に自然。くすっと笑いの連打は体にいい。心が健康になる気がするわ。

 毎回、小芝と妖怪たちが悪しき男を裏庭で裁く場面は、劇画調のイラスト解説、池谷の美声で紡ぐ歌謡ショーのような展開に。下北沢の劇場のような味わいも。

 お気に入りは、妖怪同士がテレパシーで会話するときに白目剥くシーンだ(今回の絵はそれ)。白目テレパシーを密かに流行させたいのだが、観ていない人にうまく伝えられない。悔しい。

 軽快なコメディだが、妖怪たちにはまっとうな正しさがある。実はこのシェアハウスは傷ついた女を保護し、自信と尊厳を回復させるシェルターでもある。小芝は人を疑うことを知らずダマされやすい。要するに甘い。妖怪たちは突き放しながらも陰で見守る。小芝も妖怪に頼りっぱなしではなく、自立を目指している。

 最近のドラマではなぜか若い女性が監禁されたり襲われたり酷い目に遭う、胸糞悪い設定が多い。主人公の男が助け、勧善懲悪でハイ終了という定型も。主語は男にしかなくて、女は受け身のまま。本当の意味では救われていないと感じる。

 が、このシェアハウスでは妖怪たちが過保護でも過干渉でもなく、小芝が自分で解決できるよう絶妙にアシスト。初めは自分を責めて何も言えなかった小芝が反論できるようになり、悪しき男には刃向かえるようになる。女を救ってやったと英雄気取りの男も皆無。それがこんなに心地いいものかと気づく。救いがある。

 勝手に深掘りしているだけかもしれないが、設定やセリフに違和感や気色悪さがないって大事だなと強く思い始めた。たぶんここ数日、男も女も対等に主張して対等に闘う米国産ゾンビドラマを観ているからだろう。かなり影響されている。

 ゾンビから妖怪話に戻す。そもそも幽霊や妖怪は、欲にまみれた人間の差別や侮辱、業が生み出した背景も多い。悪さをするので忌み嫌われるが、本当に悪くて恐ろしいのは人間だ。妖怪に救われるという設定は、皮肉だけど真理だなと思う。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビ番組はほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2020年9月3日号掲載

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