実は「太陽にほえろ!」にも出演していた渡哲也さん 出演理由も人物設定も泣ける話

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“大門軍団”の団長イメージは…

 さて、次はキャラクター像である。当時の渡さんといえば「西部警察」の“大門軍団”の団長こと大門圭介のイメージが定着していた。本来ならそのイメージを継承すれば簡単だったのだが、そうはしなかったのだ。

 渡さんが「太陽にほえろ!」で演じた橘はデスクワークにこだわることなく、現場に積極的に赴くタイプである。一人称は“自分”だが、部下から“警部”と呼ばれると“はい”と返事をする。逆にトシさん以外の部下をニックネームで呼ぶことはほぼなかった。

 いかにもキレ者といった感じで、他の刑事を圧倒する貫禄と威厳があった。無口だが、捜査の進め方、犯人逮捕には大胆なタイプであった。しかも時には沈着な面もみせ、部下たちがア然とするほどの捜査の指揮も冴えわたっていた。部下を見る目はいつも温かく、まさに理想的なボス代理だったのだ。要は“団長”とは違う敏腕刑事・橘兵庫というキャラクターを見事に演じていたのだ。

 ちなみに「太陽にほえろ!」には刑事たちが各回持ち回りで主人公を務める回があるのだが、この橘も1度だけ主演を務めている。86年9月12日に放送された第710話「殺意との対決・橘警部」である。

 話の発端は、5年前に橘が扱った麻布での刺殺事件である。だが、そのときの犯人はある男を買収して裁判を不起訴に持ち込んでいた。そのとき妻子を殺された男が橘を含む当時の事件関係者を次々と狙ってくる……というストーリーであった。

 このときの犯人・安部を逮捕した際、橘は安部が手にしていたライフルを逆に左手で握って、残った右手での拳一発で倒した。ヘリコプターからライフル狙撃する「西部警察」の団長とはかなり違っていて、深く印象に残っている。

 こうして代理ボスぶりも板についてきた橘だったが、ドラマは突然その幕を下ろすこととなる。1話だけなら復帰出来るという石原の申し出があったのだ。

 それなら思い切ってそこで番組を終了させよう、と制作サイドが決断した。その最終回第718話「そして又、ボスと共に」で藤堂ボスが復帰、橘はそれにともない本庁へ帰っていく形で七曲署の面々に別れを告げることに。

 番組はボスが復帰して華を添える形で終了したが、実はこの放送日は改編期でもなく年末でもなく86年11月14日という中途半端な日程であった。つまり、いかに急に最終回を決めたかが分かる。

 制作サイドとしては渡さんの代理ボスでいけるところまでいく腹づもりだったらしく、この先の台本も書き進められていた。一つにはその台本を消化するという意味もあって、奈良岡朋子演じる篁朝子を“女ボス”に迎えた「太陽にほえろ!PART2」が1クールのみ放送されている。

 だが、この渡さん演じる橘兵庫というキャラクターはまだまだ進化出来る可能性があっただけに、かえすがえすも残念である。団長の陰に隠れる形となった“幻のボス”ではあったが、熱烈な「太陽にほえろ!」ファンにとって、その勇姿はいつまでも胸に焼き付いている。

上杉純也

週刊新潮WEB取材班編集

2020年8月25日掲載

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