猛スピードで進む新型コロナのワクチン開発 意外と知られていない問題点とは?

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ワクチンをめぐる課題

 ワクチンについては、高齢者に効きにくい可能性が高いという問題がある(7月21日付ナショナルジオグラフィック日本)。免疫機能は老化により衰えるとともに、加齢による慢性的な炎症がワクチンの作用を阻害するからである。

 ワクチン開発はこれまで「小さな子どもたちの命を救う」ことに焦点が当てられてきたが、新型コロナウイルス用のワクチンを必要としている対象(高齢者等)には、ワクチンが最も効かない可能性が高いのである。

 ワクチンは健康な人にも投与されることから、高い安全性が求められるのは当然だが、「ワクチンの真価が本当に明らかになるのは、正式に承認されて広く一般に接種されてからだ」との指摘もある。

 臨床試験はあくまでも管理された環境下で行われるものであり、たとえ臨床試験をすべてパスしたワクチンでも、効き目に違いが出てくることがあるからである(7月4日付ナショナルジオグラフィック日本)。

「ワクチンを打ちたくない」という人が一定数いることも懸念材料である。いわゆる「ワクチン忌避」という1世紀以上前から存在する古くて新しい問題だが、SNSなどを介して科学的根拠の乏しい反ワクチン派の主張が流布しやすい状況となっている。

 ワクチンは健康な人にも投与するので、効果よりも有害事象の方が目立ちやすいという宿命がある。政府は、「多くの人がワクチン投与により免疫を獲得することで感染症の拡大防止に効果がある」ことを国民に対して丁寧に説明する必要があるが、メディアはワクチン接種後の有害事象をことさら強調する可能性があり、子宮頸がんワクチンを巡るこれまでの経緯を振り返ると楽観はできない。

 新型コロナウイルスのパンデミック以前の状態に戻すために、抗体を持つ人に移動の自由を与える「免疫パスポート」の議論が経済学者を中心になされているが、その決め手として期待されているのはワクチンである。

 だが、これまで述べてきたように、ワクチンについて様々な問題があることから、医学の専門家は「ワクチンに全ての望みをかけるのではなく、より包括的な戦略を検討すべきだ」との見解である(7月23日付CNN)。

 ワクチンとともに大事なのは治療薬の発見・開発である。

 厚生労働省は7月22日、新型コロナウイルスの治療薬として、ステロイド薬「デキサメタゾン」を認定した。5月に承認された新型コロナウイルスの増殖を抑える「レムデシビル」に対して、デキサメタゾンは症状の悪化に伴う過剰な免疫反応を抑えるなどの作用があると考えられている。

 デキサメタゾンは免疫機能を抑止することから軽症段階では使用できないが、過剰な免疫反応を引き起こすインターロイキン6の分泌をピンポイントで抑える関節リウマチ薬「アクテムラ」も医療現場で徐々に使われ始めている。開発者である中外製薬や親会社のスイス・ロシュが実施している第3段階の臨床試験はまもなく終了する予定である。

「重症化を未然に防ぐ」という画期的な効果を発揮すると期待されるアクテムラが、第3の治療薬として承認されれば、ワクチンがなくても、新型コロナウイルスのさらなる襲来で医療現場が崩壊することを未然に防げるのではないだろうか。

藤和彦
経済産業研究所上席研究員。経歴は1960年名古屋生まれ、1984年通商産業省(現・経済産業省)入省、2003年から内閣官房に出向(内閣情報調査室内閣情報分析官)、2016年より現職。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年8月5日掲載

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