マツモトキヨシが限定「ミルキー」チーズケーキ味を出す2つの事情

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インバウンドと「3万個」

 ローソンやTBCでPB商品の開発に携わってきた流通アナリストの渡辺広明氏は、マツキヨの限定味に、近年のドラッグストア業界を取り巻く2つの事情を読み取る。まずひとつ目は「インバウンド」だ。

「パッケージに『ONLY』と英語で表記していることや、外国の方でも知っているような有名お菓子を限定味にしていることから、インバウンド客もターゲットにしていることは明らかです。ここ数年、訪日外国人客がドラッグストアにとって、重要な顧客であることはご存じのとおり。特に都心に多く店舗を展開するマツキヨは、他のドラッグストアに比べて、インバウンド需要が高く、売り上げのおよそ10%を占めていると言われています。また、私が取材した昨年の段階の数字では、売り上げ全体に占めるPB商品の割合は10・5%。インバウンド購入のうち7%をPBが占め、外国人観光客にも人気でした」

 マツキヨとインバウンドの深い関係は、コロナ禍による影響からも見て取れる。コロナによる生活必需品の特需で、郊外型ドラッグストアチェーン各店の3~5月期の既存店売り上げは、いずれも前年比を超えている。外出自粛による自宅近く店舗での購入増、また買い溜めの動きも影響したとされる。一方、マツキヨだけはコロナで売り上げを減らし、“一人負け”とする報道もあったほど。それほどまでにマツキヨはインバウンドに依存していたのだ。

 限定味が登場した2016年に2000万人を超えた訪日外国人観光客数は、2019年に過去最多となる3188万2100人を記録していた。集客の柱として、マツキヨが限定味を導入したということだろう。もっとも、今年はコロナ禍に見舞われてしまったわけだが……。

「インバウンド需要はしばらく戻りそうにありませんから、もしかするとマツキヨの限定味も、縮小するかもしれませんね。とはいえ、ドラッグストアでこうした“限定味”を売り出すことは、なかなかできることではないと評価しています。私の経験からいうと、化粧品や雑貨などを、高品質で買いやすい価格の商品として開発するとなると、最低ラインは『3万個』なんです。ドラッグストアを含む小売業で販売する商品の場合、工場の製造効率や人件費などの固定費を考えると、製造の基準は『3万個』になるのです。コンビニであればこのハードルはそんなに高くありません。業界3位のファミリーマートでも1万6000店ありますから、仮に3万個作っても、ひと店舗で2つ売れば少なくとも赤字は回避できます。でもマツキヨの店舗は、全国で1654店です(※19年3月末、ホールディングス全体の数字)。一店当たり18個以上を売らなければならない計算です」

 食品の扱いがほとんどないマツキヨの店舗もあるから、実際のハードルはもっと高いはず。ただ、来年10月にマツキヨはココカラファインと統合され、店舗数はおよそ3000店になるとされる。限定味のラインナップ拡大は、この統合を見据えての挑戦かもしれない。

「ただし、お菓子に限れば3万個のハードルは少し下がるかもしれません。数年前、静岡に店舗を構える杏林堂という薬局チェーンが、カルビーとコラボしたオリジナルの『遠州風お好み焼き味』ポテトチップスを販売しました。ローカルチェーンなので店舗数は当時、70店弱しかありませんでした。にも拘わらず、なぜ限定味のポテチを出せたかというと、ポテチの場合、違いは揚げたジャガイモにつけるフレーバー粉(味付け)とパッケージのデザインだけ。この2点を変えればいいだけなので、限定味を出すのが簡単なんです。旅行先でよくご当地味のスナック菓子を見かけますが、これも事情は同じだと思います。マツキヨが限定味を出している各お菓子も、そんな手間をかけずに“味変”が可能なラインナップを選んでいるのかもしれませんね」

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