梅雨時マスクの優れもの「鼻穴マスク」を映画で学ぶ

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 ついに移動の自粛が全面解除された。6月19日、長きに渡って要請されてきた「都道府県を跨ぐ移動の自粛」が全国的に解除されたのだ。もちろんコロナ感染のリスクがゼロになった訳ではなく、withコロナ時代の移動にマスクはまだ必要。しかし、梅雨の湿気と暑さが交互に襲う今の季節、マスクをするだけでも大変だ。口元を覆う鬱陶しいマスク、どうにかならないものか…。

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 日本政府支給のマスク(通称アベノマスク)も6月15日、全世帯の配布が終わったと報じられた(マスクチームの皆さん、お疲れ様でした)。自粛解除と同じ6月19日には、真打ちと言わんばかりにユニクロの「エアリズムマスク」も発売された。ユニクロが世界に誇る素材「エアリズム」を使用したこのマスク。買い求めようとする人々が全国の店舗に殺到し、オンラインストアでも早々に売り切れた。ユニクロマスクの詳細についてはデイリー新潮の別記事「ユニクロ“エアリズムマスク”、涼感はともかく小顔効果バツグンで一択」を読んで頂きたいが、どれだけ多くの人々が新マスクに期待していたかということだろう。

 実際に購入してみたところ、確かにエアリズムの肌触りが快適だ。立体裁断で顔にフィットしているので、飛沫から口・喉と鼻穴が守られている「安心感」がスゴい。

 ただし、飛沫を防ぐフィルターが内蔵されているせいか、このマスクを着けたまま歩き回るのはちょっと辛い。秋や冬の寒い季節なら問題ないだろう。机に座ったままなら、今でも問題ない。しかし外出時に使うとなると、高温多湿の梅雨時や、まもなく訪れる猛暑・酷暑の夏は大丈夫だろうか。

 マスクの外側に付着したウイルスや、内側に発生した雑菌は、これまでに「やっぱり紫外線! アベノマスクをUV除菌ケースで消毒してみたら…!」や「アベノマスクだけじゃなくスマホも withコロナ時代の紫外線除菌「最終兵器」」などの記事で紹介したような、紫外線(UV-C)ガジェットを使って除菌すればよい。

 問題は、暑い出先でマスクを使う場合、口元を遮断物が覆うこと自体の蒸し暑さと不快さからはどうにも免れることができないことだ。マスクの機能性(ウイルス対策)と快適性は残念ながら反比例する――。これがマスクの「常識」だ。

 ところが、その「常識」を打ち破るような映画があった。なんと鼻穴だけを覆う極小タイプのマスクが登場するのだ。それがミラ・ジョヴォヴィッチ主演の映画「ウルトラヴァイオレット」だ。

 2006年に公開されたこの映画、出演作を選ばないことで知られるミラ・ジョヴォヴィッチ作品の中でも極め付きの映画だ。「リベリオン」のカート・ウィマー監督お得意の格闘術「ガン=カタ」とオリエンタリズムが炸裂するカルト映画である(Amazon Prime Videoで絶賛レンタル中。299円)。

 映画の内容はシンプルだ。近未来、米国兵器研究所が新型ウイルスを発見し兵士の増強剤を作ろうとしたが失敗、恐ろしい感染症を生み出してしまった。このヘモファージ・ウイルス(HGV)は瞬く間に世界に蔓延し、人々はテロではなくて感染に脅える時代になった。人類はウイルスに感染した人間を「ファージ」と呼んで弾圧。いまや政治権力を掌握した医療機関がファージ根絶の切り札となる「最終兵器」を開発したことを察知したファージ地下組織は、ミラ・ジョヴォヴィッチ演じる凄腕の殺し屋「ヴァイオレット・ソン・シャリフ」に最終兵器の奪還を依頼する(彼女の役名は、ウイルス対策に有効な紫外線(=ウルトラヴァイオレット)へのアンチテーゼかもしれません)。

 ミラ・ジョヴォヴィッチは「ガン=カタ」譲りの格闘術を駆使して最終兵器奪還に成功するが、それは兵器ではなく、「ウイルス抗血清」を持つ9歳の少年だった。医療機関の研究員から成り上がった独裁者フェルディナンド・ダクサス枢機卿が自らのDNAから作り上げたクローン人間だったのだ。

 ポイントは2つ。まず、ウイルス感染を恐れて人類は色とりどりのマスクを装着したりヘルメットを被ったりしているが、独裁者ダクサスが「鼻穴マスク」を着けている点だ。鼻穴に装着するタイプの極小マスクは、極めて珍しい。口元を覆うことなく、いかにも涼しげだ。

 確かに、新型コロナウイルスの場合でも、ウイルスが体内に侵入する主たる経路が「鼻穴」であることは知られている。しかし、口を覆わなくて大丈夫なのだろうか。映画を観る者は戸惑いながらストーリーを追っていくことになるが、最後に秘密が明かされるのである。

 実はダクサスは、すでにウイルスに感染したファージだったのだ。彼は権力を維持するために、ウイルスに感染していないふりをしてファージ狩りを続け、「抗血清」を利用しようとしていたのである。つまりダクサスの鼻穴マスクは、ウイルス感染を防ぐためではなく、「ウイルスに感染していない人間であること」をシンボリックに示す道具に過ぎなかった訳だ。だから必要最小限の面積として、鼻穴を覆っていればよかったのである。

 この茶番のような映画「ウルトラヴァイオレット」だが、もう一つ、我々に大事な教訓を示唆してくれる点がある。ミラ・ジョヴォヴィッチが劇中で、9歳の少年と地下鉄の構内で別れるシーンだ。

 この感動的なシーン、別れの瞬間にミラ・ジョヴォヴィッチは、命をかけて守り抜いた少年にこう言葉をかけるのである。

「ちゃんと、マスクして」

 人は、今生の別れを覚悟した時に大切なことを言う。「しっかり生きろ」とか「人生で一番大切なもの、それは愛だ」とか。

 映画「ウルトラヴァイオレット」でミラ・ジョヴォヴィッチは、「ちゃんと、マスクして」と言うことで「マスクの重要性」を教えてくれたのだ。そして、独裁者ダクサスも、相当恥ずかしかったであろうが身を挺して、マスクにいろいろな意味があることを教えてくれた。この映画を侮ってはいけないのだ。梅雨時マスクの優れもの、「鼻穴マスク」が少しうらやましい。

 次回は、このような映画を風呂場で見るための防水ガジェットを紹介したい。

北島純
社会情報大学院大学特任教授
東京大学法学部卒業。専門は戦略的パートナーシップ、情報戦略、腐敗防止。著作に『解説 外国公務員贈賄罪』(中央経済社)、論文に「外国公務員贈賄罪の保護法益に関する考察―グローバルな商取引におけるインテグリティ」(「社会情報研究」第1号)などがある。ニックネームは「ジュンジュン」(デンマーク語だとユンユン)。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年6月24日掲載

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