いよいよプロ野球開幕、試合数の少ない今季はエースがカギを握る【柴田勲のセブンアイズ】

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 待ちに待った朗報だ。新型コロナウイルスの感染拡大を踏まえて東京など5都道県で続いていた緊急事態宣言が、全面的に解除された。

 開幕を延期していたプロ野球も6月19日に開幕することが正式に決定した。開催される状況が整ったからで、最大で120試合が実施となり、当初は無観客試合になる。コロナ禍が終息の兆しを見せてはいるが、感染が今後どう転ぶか分からない。いずれにせよ手探りでのペナントレースになるだろう。

 今年はいつものシーズン以上にスタートダッシュの重要性が増すだろう。例年よりも試合数が少ない。

 開幕日が決まったことで、選手のモチベーションも高まってくる。これまでは「いつ開幕するんだろう」という不安な気持ちを抱えて練習してきたが、目標が定まった。気持ちの入り方が違う。

 無観客であっても開幕すれば選手たちは試合ができる喜びで最高のプレーを見せてくれるに違いない。だが、問題はこのモチベーションをファンの声援がない違和感の中でいつまで保っていられるかだ。

 開幕して20、30試合くらいで大きく負け越していればどうしてもモチベーションは低下する。これは通常の試合数でも言えることで、だから監督さんたちはなんとか5割のラインだけは死守しようとする。黒星が積み重なればハッパの掛けようがない。尻の叩きようがない。ましてや今年は試合数が少ない。開幕直後につまずいたら致命傷になる。

 開幕直後の1カ月くらいは「投高打低」になると踏んでいる。

 キャンプを終えて、オープン戦に入るとこの傾向が見られるが、今年は開幕が延び延びになって、投手たちが肩を使わずに休ませている。これは有利だ。

「投低打高」の傾向となるのは投手たちが疲れてくる夏場だと思う。

 開幕20、30試合。やはり投手力のいいチームが有利だろう。セ・リーグの投手力をA、Bクラスで分けると、Aは巨人、DeNA、広島、Bは阪神、中日、ヤクルトか。

 投手陣の中でエースの働きがカギを握ることになろう。セでエースと呼ばれる顔ぶれを眺めるとDeNA・今永昇太、阪神・西勇輝、広島・大瀬良大地、中日・大野雄大、そして巨人は菅野智之だろう。

 エースに求められるのは安定感だ。ローテーションの軸として活躍し、連敗時にはストッパーとなる。

 私は「日本で一番の投手は?」と聞かれたら菅野と答える。もちろん。ケガをしていない万全な時の菅野だ。

 スピード、コントロール、投球術、大崩れしない、四球の少なさなど総合点を付けると文句なしである。

 昨年は腰痛などで3度の登録抹消を経験した。本人には不本意な1年だったろう。開幕投手はすでに決まっている。今年は、いつ開幕してもいいようにと考えながらブルペンに入っているという。上体を先にひねる新たな投球フォームに取り組んでいるとも聞く。

 巨人のVの行方を左右する存在となるだろう。

 菅野だけではない。エースの称号を託された投手たちはいま、開幕に向けて調整に励んでいることだろう。先にも記したが、エースに要求されるのは安定感だ。

 今年は各チームにとってエースの存在が際立つシーズンになると思う。

 それにしても今年は寂しい夏になりそうだ。甲子園大会と47都道府県の地方大会が中止となった。コロナ禍が完全に終息しない中で仕方がないこととはいえ、甲子園を夢見てきた高校球児たちが気の毒だ。

 都道府県によっては地方大会に代わる代替試合を検討しているところもあるという。少しでも高校球児たちをフォローしてほしい。

 長い自粛生活にピリオドを打つことになったが、相手は目に見えないウイルスだ。油断は禁物である。感染の第2波、第3波がくる可能性がある。

 開催方法に関しては移動による感染リスクを減らすための工夫がなされる。選手の宿舎での生活にもさまざまな制約が設けられることにもなるだろう。

 開幕しても選手や球団関係者から感染者が出るようなことになったら、波紋は大きく広がる。

 最後に何度でも言うが、油断禁物である。いずれ球場にお客さんの歓声が沸く日は必ず来る。それまでは用心・警戒の気持ちを崩さないことだと思う。

柴田勲(しばた・いさお)
1944年2月8日生まれ。神奈川県・横浜市出身。法政二高時代はエースで5番。60年夏、61年センバツで甲子園連覇を達成し、62年に巨人に投手で入団。外野手転向後は甘いマスクと赤い手袋をトレードマークに俊足堅守の日本人初スイッチヒッターとして巨人のV9を支えた。主に1番を任され、盗塁王6回、通算579盗塁はNPB歴代3位でセ・リーグ記録。80年の巨人在籍中に2000本安打を達成した。入団当初の背番号は「12」だったが、70年から「7」に変更、王貞治の「1」、長嶋茂雄の「3」とともに野球ファン憧れの番号となった。現在、日本プロ野球名球会副理事長を務める。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年5月28日掲載

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