「ニコチンにコロナ抑制効果」は本当か フランスからの研究報告

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 世界中で治療薬の開発競争が繰り広げられるなか、意外な“伏兵”が現れた。しかも、その正体は健康志向の人々から目の敵にされてきた“タバコ”である。愛煙家にとっては朗報だが、さて、真偽はいかに――。

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 事の発端は、先月末にフランスで発表された研究結果だった。パリのピティエ・サルペトリエール病院の研究チームが、コロナ患者343人と軽症の感染者139人を調査したところ、喫煙者はわずか5%に過ぎなかったという。

 アラン・ドロンは“ジタン”、ジャン・ギャバンは“ゴロワーズ”を好むなど、フランスは紫煙と縁が深い。国民の喫煙率は35%にのぼるが、先のコロナ感染者のうち愛煙家は20分の1なのだ。

 外信部の記者が言う。

「この研究結果を報じたAFP通信の記事によると、研究チームのメンバーは、“ニコチンが細胞受容体に付着することで、ウイルスが細胞に侵入し、体内で拡散することを阻止する可能性がある”という説を唱えているようです。臨床試験を進めるため、国の承認を待っている段階だとか」

 ニコチンがコロナを予防し、仮に感染しても重症化を防ぐということか。

 この説が立証されれば、世間から煙たがられてきたタバコが一躍、コロナ禍を救う切り札となる?

 とはいえ、先日亡くなった志村けんのように、ヘビースモーカーは慢性閉塞性肺疾患(COPD)に罹患して、重症化リスクが高まるとも指摘される。一体どっちを信じればよいのか。山王病院呼吸器センター内科副部長で、国際医療福祉大学教授の須藤英一氏の見解はこうだ。

「新型コロナウイルスは喫煙によって壊れる肺胞ではなく、肺の働きを正常に保つサーファクタントという界面活性物質を産出する肺の細胞を攻撃しているという説があります。攻撃を受ける部分が異なるため、必ずしも喫煙者ばかりが重症化するのではないのかもしれません」

免疫が活性化

 一方、奥村康・順天堂大学特任教授によれば、

「フランスの研究機関は、タバコに含まれるニコチンがウイルスを抑制していると考えているようですが、私はニコチン自体にそうした効果は期待できないと思っています。むしろ、がん細胞などを叩くNK(ナチュラルキラー)細胞などの自然免疫が、喫煙者の体内で活性化していることが影響するのではないか。習慣的にタバコを吸う喫煙者は、日頃から喉などに軽度の炎症を起こしています。そのため、炎症細胞を標的にするNK細胞が常に活性化している。結果、新型コロナにも罹患しづらくなると考えられるのです」

 ただし、そう語る奥村氏も、コロナ対策として喫煙を勧めるわけではなく、

「長期にわたって喫煙を続けて肺気腫を患うと、かえって重篤化しやすい。その点には注意が必要です」

 未知のウイルスゆえ、いまの段階では何が治療のヒントとなるか分からないのも事実。果たしてマスクと同様、タバコ店に長蛇の列ができる日が訪れるのか。

週刊新潮 2020年5月21日号掲載

特集「『コロナ』見えすぎる敵」より

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