新型コロナで「再配達減少」「物流目詰まり」「運賃下落」 トラックドライバーがみた異常事態

ビジネス 企業・業界 2020年4月15日掲載

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コロナ禍でも「持ち場につかざるを得ない」人々

 4月7日に発令された政府の「緊急事態宣言」を受け、東京の街から人の姿が一気に減った。

 海外に比べると日本の危機意識は高いとは言えないものの、感染者数が日毎に増える中、これまで恐る恐る続けていた出勤や集会を「さすがにまずい」と自粛する動きが高まっている。

 その一方で、消費者の生活インフラを守るべく、どうしても持ち場につかざるを得ない人たちも少なくない。

 同宣言が出された日、薬局の前で目撃したのは、店頭に並んだアルコール消毒液を奪い合う客に「押さないで」「並んで」と声を荒らげる店員の姿。ここ3カ月間で蓄積した彼の疲労が一瞬にして感じ取れた。

 運送業界もそんな混乱の只中にいる業種の一つだ。

 業界の最前線で働くトラックドライバーの労働環境は、元々、非常に過酷である。消費者の配達時間帯指定、不在の際の再配達、荷主から半ば強制させられる手荷役(荷物を一つ一つ手で積み降ろす作業)など、「無料のサービス」に翻弄され続けている

 さまざまな社会的構図や業界独自の規制などから、意図せずに(悪意なく)なされる路上駐車、アイドリング、ノロノロ運転にも、他の道路使用者から「邪魔だ」「マナー違反だ」と後ろ指を指されるトラックドライバーたち。そんな声にも、コロナ禍にも抗いながら、彼らはこの瞬間も「通常通り」走り続ける。

 筆者が3月に刊行した『トラックドライバーにも言わせて』(新潮新書)は、そんな彼らの現状をつぶさにリポートし、最前線の苦労と複雑な事情について詳述したが、今回、トラックドライバーや物流・運送関係者に、「コロナ問題と『緊急事態宣言』後に生じた業務上の変化」について改めて取材した。

「いつも通りです」のウラにある複雑な事情

 第一声の多くがこれだった。

「いつも通りです」

 とはいえ、未曽有の事態である。デマや消費者の不安によって買いだめ・買い占めが起きる中、「いつも通り」業務を続けることは想像以上に難しい。ほぼ全ての業種・職種に絡む物流・運送業界において、実際のところ「いつも通り」で対応できるわけもなく、無論その裏には“普段以上の努力と戦い”があるのだが、「国の経済活動を支える血液」と称される彼らトラックドライバーたちには、どうしても「いつも通り」を保つことが求められるのだ。

 そんな彼らの舞台裏で起きている「実際の影響」にはどんなものがあるのか。

 いわゆる「BtoB」(企業・法人を相手に取引する)の輸送を担うトラックドライバーは、積み荷によって影響の出方や度合が大きく異なる。

 イベントで使用される機材や海外輸出入品、自動車関連工場で製造される部品など、人の集まる場所、モノづくりの現場周辺の輸送を担っていたドライバーは、現在とにかく仕事がない。

 こうして荷量が減ると生じるのが「運賃の下落」。ある運送会社の運行管理者は、

「こんなにしんどい配車は久しぶり。荷物なさすぎ。これだけ暇だと仕事の価格破壊も凄まじい。定期の仕事はまだいいが、回ってくる不定期の仕事はひどい運賃になっている。それでも引き受けるほど仕事に困っている会社が多い。乗務員不足で運賃交渉していた苦労が水の泡になりそう」

 と肩を落とす。

 また、あるトラックドライバーは、

「仕事がなくなった配送部署のドライバーを他部門に振り分けているが、それによって仕事が奪われ、結果的にドライバー全体の給料が下がる見込み。きつい」

 と話す。

トラックドライバーの真の敵

 逆に、「コロナ禍の影響で荷量が増えた」「緊急事態宣言後はさらに増えるだろう」というのは、生活インフラに絡む商品を運ぶドライバーたちだ。

 コメ、水、トイレットペーパーなどは、イベントや集会を自粛したとしても人間が生きていく上では欠かせない生活必需品。ゆえに輸送も商品がある限り、止まることはない。

 しかし、彼らトラックドライバーが“普段以上の努力と戦い”を強いられる原因となるのは、無論こうした通常輸送ではない。その先にある、消費者の「異常な消費行動」にある。

 デマや先の見えない不安によって生じる買いだめ・買い占めはなぜ起こるのか? 記憶に新しいのはトイレットペーパー騒動だろう。製造工場は平常通り稼働し、物流センターにも在庫がたんまりある中で続いた今回のトイレットペーパーの品薄。その原因は、配送が追い付いていないことにあった。

 定期便としてあらかじめ決まっている輸送ルートや、慢性的なトラックドライバー不足により、配送は突発的な需要の高まりには素早く十分な対応ができない。ゆえに、デマ情報はトラック物流業界にとって大きな混乱を招くことになるのだ。

 こうした実情を伝えるべく、トイレットペーパーに関するデマが流れた際、SNS上ではトラックドライバーたちが荷台に積み上げた商品の写真とともに「在庫はあるから安心しろ」と世間にアピールする投稿が目立った。

「巣ごもり消費」の影響

 一方、ラストワンマイル(拠点からエンドユーザーに届ける)の宅配業務においては、配達先でアルコールを吹きかけられる配達員が出るなど、残念なニュースも耳にしたが、業者の側でも工夫を凝らし、その配達方法に大きな変化が生じている。

 ヤマト運輸では、対面での受け渡しを避けるべく、チャイムを鳴らした後にハンコやサインなしで荷物の受け取りを完了させるサービスをスタート。佐川急便では、タブレット上へのサインを求めていた受け渡しを、伝票への押印やサインに切り替える場合があるとのことだ。

 さらに日本郵便では、新型コロナウイルスの感染拡大に対する限定的な措置として、「緊急事態宣言」が出された都府県においては、書留郵便物などを対面での手渡しではない形で配達できるよう決定。サインなどの代わりに、配達員が指定場所に配達したことを書き込み記録として残すなどの対策をとるという。

 また、EC(ネット通販)に対する需要の高まりにより、宅配業務には配送に一部遅延も出始めている。いわゆる「巣ごもり消費」の影響だ。

 大手通販サイトAmazonの配達員の話によると、最近よく運ぶと感じるものは「オフィス用家具」と「自宅用トレーニングマシーン」だという。

 慣れない自宅でのリモートワーク。既存の自宅用家具では集中できないワーカーによってデスクやキャスター付きの椅子がよく買われ、「3密」の筆頭であるジムに通えなくなった消費者の元には、重たいダンベルや本格的な筋トレマシーン、ランニングマシーンが届けられている。こうした荷物を運ぶ配達員の苦労には頭が下がるばかりだ。

 そんな中、唯一好影響として配達員が感じる変化が「再配達の減少」だ。その要因は、外出自粛で自宅待機率が高まったことと、置き配の普及にある。

 ただ、彼らの負担がゼロになったわけではない。例えば代引きの商品の場合は置き配ができず、すでに「20キロのダンベル2セットの代引き配達があったが持ち戻った。電話には出ない。配達先は階段3階」といった事例も聞く。一軒一軒回る彼らの苦労や負担は、やはり消費者の意識改革なくして解消されないのが現状なのだ。

 国内の貨物輸送の9割以上を担うトラック――。

 非常事態ともいえるこういう時だからこそ、目に見えないところで我々の「巣ごもり」を支える彼らの知られざる苦労や、ワンクリックから玄関に着くまでに起きている現状を、荷主や消費者に分かってもらえれば、彼らの「いつも通り」にも、幾分余裕が生まれるに違いない。

デイリー新潮編集部