PJ機内で逮捕はフェイク……カルロス・ゴーンが私に700分語ったこと

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「過少記載」とされたのは「未払い報酬」だった

 そして、逮捕から5日後の11月24日、朝日新聞の朝刊1面トップで、ゴーン氏の逮捕容疑の「役員報酬の過小記載」が、「実際に支払われた報酬」ではなく、「未払いの報酬」の問題であることが報じられた。犯罪の成否に疑問があるだけでなく、そもそも刑事事件として立件すること自体も全く理解し難いものだった。

 現実に支払われた役員報酬は、手続きに重大な瑕疵があったということでもない限り、返還ということは考えられない。一方、「未払いの報酬」は、仮に、退任後に支払う合意があったとしても、実際に、退任後に顧問料などの別の名目で支払うためには、支払を行う時点で改めて社内手続を経ることが必要となる。また、もし、会社の経営が悪化し、大幅な赤字になって経営トップが引責辞任することになったというような場合には、退任後に支払う合意をしていたとしても、実際に支払うことは、株主に対して説明がつかないことになる。結局、「支払の約束」の契約は、事実上履行が困難になる可能性も高い。そういう意味では、仮に、退任後の「支払の合意」があったとしても、無事に日産トップの職を終えた場合に受け取ることへの「期待権」に過ぎないと言える。

「未払いの役員報酬」の問題は、ゴーン氏らを、弁解を聞くこともなく、来日直後に突然逮捕することの理由になるようなものでは全くなかった。

逮捕後、ゴーン氏に何が起きていたのか

 では、逮捕されてから、容疑事実が「未払いの役員報酬」の問題であることが明らかになるまでの5日間、ゴーン氏には、どのようなことが起きていたのか、インタビューで、その間の経過について話を聞いた。

――少なくともそういう場面では、弁護人に連絡したいと言えば、連絡させないといけないはずだが、そこはどうだったか。

 その辺は覚えていない、電話は使えなかった。全て取り上げられた記憶はある、パスポートと電話も。当日か翌日かわからないが、弁護士はどうすると言われたので、日産に電話してくれと言った。日産の広報の川口(均・元副社長)に連絡して、弁護士をよこすように言ってくれと伝えた。日産が裏で動いているとは疑っていなかったから。

――本来、被疑者を逮捕した場合の手続としては、検察庁に連れて行って被疑事実を読み、そこで弁解を聞く必要がある。それは記憶にないか。

 それをした可能性はあるが、覚えていない。超特急で手続をしたので、どこかに止まったときにその手続をしたかもしれない。

――逮捕された場合は、なぜ逮捕されたかが告げられ、弁解の機会が与えられるはず。

 弁解をするような質問は何もなかった。最初に金商法(金融商品取引法)違反と聞かされたが、説明の仕方が私には理解できないもので、何を意味するのかわからなかった。当初はストックオプションのことを誤解していると思った。

――未払いの報酬だとわかったのは、逮捕後何日ごろか。

 3~4日後だったと思う。

――過少に記載したというのが何なのか逮捕から5日間はマスコミにまったく出なかった。そして一方的なバッシングが行われた。そのことについてどう思っているか。

 それが全体の仕掛けだった。検察が日産も含めてグルになって、住宅を持っているとか、姉が不正な契約をしているとか、全く法的論拠がない非難を受けた。

――弁護人は、どのようにして選任したのか。

 逮捕された翌日の午後、フランスの駐日大使が来た。西川(編註:廣人・日産自動車共同CEO兼副会長[当時])がこんな記者会見をしたと聞いたとき。ショックだった。日産の社外の弁護士もが日産から要請を受けて来たが、名前は憶えていない。ルノーからの推薦で送られてきた弁護士が大鶴(編註:基成)だった。大使から状況を聞き、日産が私を告発したと言われたので、日産側から送り込まれてき来た弁護士はやめた。

 私自身は日本で弁護士に相談したり依頼したことがない。逮捕後にいろいろな弁護士が立て続けに来たが、英語を話さないのでどうにもならなかった。そこで、ルノーからの推薦があった大鶴にした。

――もし、大使が面会に来ず、日産の裏切りを知らされていなかったら、日産から送り込まれた弁護士に依頼していたのか。

 日産の裏切りについては時間の問題で知るところだったと思う。ブラジルの領事と、レバノンの大使も来たので、誰かしらが教えてくれただろうが、もし、日産の裏切りを知らなかったとすれば、その時点では当然、日産の弁護士にしていただろうと思う。

 ゴーン氏の話によると、逮捕から3、4日間は、逮捕容疑の金融商品取引法違反の「有価証券報告書虚偽記載」というのが、一体どういうことなのか、何が問題とされているのか、ゴーン氏には全く知らされなかった。そのような状態で身柄拘束されていた間に、何が犯罪事実かも明らかにならないまま、バッシング報道によって、ゴーン=「犯罪者」のイメージが定着していった。

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