新型コロナと運動不足 日常生活はどのくらいの運動になるかを知っておこう

ライフ 2020年4月4日掲載

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 新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、多くの人が外出を控えるようになった。自身の健康のため、あるいは社会全体の利益を考えれば当然だろう。

 一方で、スポーツジム通いが出来なくなって運動不足が気になるという方もいるに違いない。スポーツジムは、感染が拡大しやすいスポットの一つとして早い段階で指摘されていた。

 ここで知っておきたいのは、見ようによっては日常生活も運動となるという観点だ。何も他人と共にマシンを使うことだけが運動ではない。家事をこなすことでかなりのカロリーは消費できるのだ。東京医科歯科大学教授の医学博士、古川哲史さんの新著『心臓によい運動、悪い運動』から「日常生活をエクササイズとして捉えなおす」の項を全文引用してみよう。

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日常生活をエクササイズとして捉えなおす

「仕事が忙しくて、とても運動する時間がとれない。ましてやジムに行く時間なんて」「子どもの手が離れなくて、運動なんてとてもとても」という人も多いのではないでしょうか。ある作家のエッセイで「ニューヨーカーは通勤にタクシーを使い、お昼はでっかいハンバーガーとラージサイズのコーラを飲むのに、夜になるとジムにせっせと通って苦行のように顔をしかめながら汗を流すのは滑稽だ。行きかえりにタクシーを使わず歩けば、ジムに行く必要なんてないのに」という文章を読んだことがあります。忙しくて運動をする時間が取れない人でも、日常生活の中でできる運動を行うことが大切です。

 日常生活でどのような運動をしたらいいのかの話に入る前に、「METs(メッツ)」という言葉について説明したいと思います。METsはMetabolic EquivalenTsの略。「Metabolic」は日本語に訳すと「代謝」、「equivalents」は「同等」とか「等価」という意味です。METsは、今日歩いたのはXX歩、脈拍はYY拍/分などと同じように「単位」を表す言葉なのです。では何の単位を表すのかというと、「活動強度」の単位を表します。完全に安静にしている時、例えばベッドに横になって浅い呼吸だけをしている時に体が必要とするエネルギー(カロリー)の量を基礎代謝量といいます。この完全に安静にしている時の活動の強度を基準の「1MET」とします。ある行動や運動がこの完全に安静にしている活動の強度の何倍にあたるのかを示す数値がMETsです。通勤時、歩行などの活動の強度は、安静にしている時の活動強度の4倍になるので4METsと表します。

 日本では国立健康・栄養研究所が、どのような行動・運動が何メッツに相当するのかという詳しい表を公表しています(https://www.nibiohn.go.jp/files/2011mets.pdf)。「不活動、安静~安静に近い低強度活動」、「家での活動」、「スポーツ」など様々なジャンルの活動が含まれており、ここまで調べるか、と感心させられるほど詳しい表です。そこから、皆さんが比較的行うことの多いものを、僕の独断と偏見で選んで表にしてみました。

 これはあくまで表の一部にすぎません。是非、皆さんも日頃ご自分が行っている活動が、基礎代謝の何倍のエネルギーを必要とする活動なのか、調べてみてください。

 METsを知ることによって、いろいろな行動や運動で消費されるカロリーを計算することができます。ある行動の消費カロリーが、別の行動の消費カロリーのどの程度にあたるのか比較することができます。この消費カロリーはMETsから次の式を使って求めることができます。

 消費カロリー(kcal)=1・05×それぞれの行動のメッツ×時間(時)×体重(kg)

「1・05」は活動強度(METs)から消費エネルギー(消費カロリー)を求めるのに必要な、補正のための数字です。具体例で説明したほうが、METsがどのように役に立つのか、イメージしやすいかもしれません。

 体重50kgのお母さんで小さなお子さんがいらっしゃる方の1日を想像してみました。朝昼晩の食事の準備・片づけに2時間、洗濯に30分、掃除に30分、アイロンがけに30分、子どもの世話に1時間、子どもと公園で遊ぶのに1・5時間、子どもの昼寝に1時間、子どもとの買物(ベビーカーを押しながら歩く)に1時間かかったとしましょう。これだけで1日24時間のうちの8時間も使われてしまうのですね。このようなお母さんの8時間で消費されるエネルギーがどのくらいになるか、表のMETs値を使って計算してみました。

 食事の準備・片づけ=1・05×3.3×2×50=347kcal
 洗濯=1・05×2.0×0.5×50=53kcal
 掃除=1・05×3.3×0.5×50=87kcal
 アイロンがけ=1・05×1.8×0.5×50=47kcal
 子どもの世話=1・05×3.0×1×50=158kcal
 子どもと公園で遊ぶ=1・05×3.5×1.5×50=276kcal
 子どもの昼寝=1・05×1.5×1×50=79kcal
 子どもとの買物=1・05×4.0×1×50=210kcal

 となり、合計で1257kcalのエネルギーを消費することになります。これは約3時間のジョギングと、ほぼ同じになります。3時間のジョギングなんて、なかなかできるものじゃありません。このように、METsを知ることによって他のエクササイズと比べることができます。「子どもの手が離れなくて、運動なんてとてもとても」と悩んでいるお母さんは、運動不足なんて全然心配いらないんだということが分かります。この活動時代謝量は日中だけのものなので、まる1日にするともっと必要になるでしょう。これに基礎代謝量が1150kcal、食事誘発性熱産生が200kcalくらい必要となるので、合計で軽く3千kcalくらいは必要となります。授乳中だったらもっと必要になるので、ダイエットするよりもしっかり栄養をとることの方がはるかに重要です。

 それでは僕を含めて、「仕事が忙しくてとても運動する時間なんてとれないし、ましてやジムに行く時間なんて」とぼやいている人の場合はどうでしょう? 残念ながら何かしらの努力・工夫をしないと簡単にメタボになってしまいます。日常で、どんなことを心がけたらいいのでしょう?

 表には含めませんでしたが、座位でデスクワークをする時の消費エネルギーは1・3METsですが、立位で様々なことをすると2・5METsとなります。立つことだけで消費するエネルギーが2倍になるのです。最近は、人は立って作業する方が頭の働きがよくなる、ということで立ってデスクワークをするのが一部でトレンドとなっています。座位立位可変デスク、座位立位両用デスクなども発売されています。また、ゆったりとストレッチをすると2・3METsです。そこで、70kgのビジネスマンが生活習慣に少し工夫を取り入れた1日を想像してみました。お昼休みなどに30分くらいストレッチをして、1日のデスクワークのうち1時間くらい、立ってメールチェックなどをして、駅やオフィスでの上への移動でエレベーター・エスカレーターを使わずに階段を使って、帰りに少し前の駅で降りて、30分くらい少し速めのスピードで歩いて帰宅したとしましょう。階段の上りは8METsの活動になります。オフィスや駅の階段で1日で合計で30分くらいは階段の上りに使うことができるかもしれません。速足の歩行は5・0METsです。消費エネルギーは、

 ストレッチ=1・05×2.3×0.5×70=85kcal
 立位で仕事=1・05×2.5×1×70=184kcal
 階段の移動=1・05×8×0.5×70=294kcal
 歩き=1・05×5×0.5×70=184kcal

 となり、合計で747kcalとなります。育児中のお母さんの消費エネルギーにはかないませんが、これでも10km/時の速度で1時間ランニングしたのと同じ程度の消費エネルギーになります。ニューヨーカーの人がわざわざジムに行って1時間もランニングマシンの上を走らなくても、生活習慣の改善で同じだけのエネルギーを消費することができるのです。そう考えてみたら、日常生活のちょっとした工夫も捨てたものじゃないと思いませんか?

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 とりあえず事態が心配だからといってテレビの前に座って一喜一憂するくらいなら、家の中の仕事をどんどんやったほうがよさそうである。

デイリー新潮編集部