タワマンの実態は「超高層レオパレス」 脆弱な外壁と修繕不可で“45年限界説”

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外壁も戸境壁も脆弱

 レオパレス21が建てた多くのアパートの外壁や戸境壁が、建築基準法に満たない薄い構造になっていたことはご存知の通りである。タワマンの外壁や戸境壁は、建築基準法を一応クリアしているものの、そこにはほぼ鉄筋コンクリートが使われていない。

 まず外壁に使われているのはALCパネルというもの。これは「高温高圧蒸気養生された軽量気泡コンクリート」の頭文字をとって名付けられた建材で、「コンクリート」という名称を用いているものの、一般的なコンクリートとは似て非なるもの。軽量で丈夫な外壁パネル素材である。

 そして、戸境壁に使われているのは乾式壁と呼ばれる素材。ここにもコンクリートは使われていない。分かりやすく言えば分厚い石膏ボードのようなもの。

 私のところにマンション購入の相談にやってこられたある方は、財閥系大手が都心の一等地で開発分譲した大型のタワマンに、賃貸で住んでおられた。その方がおっしゃるには「隣の人がくしゃみをしたら、分かるんですよ。60万円も家賃を払っているのに」。掃除機をかけていても分かるらしい。それが乾式壁というものなのだ。

 このALCパネルや乾式壁は、建築時には便利な建材だ。何といっても工場で大量生産したものを、現場で嵌めこめばいい。鉄筋や鉄骨を組んで、コンクリートを流し、乾かす必要がないのだ。だから、外壁や戸境壁を鉄筋コンクリートで作る通常のマンションなら、1層分を作るのに約1カ月かかるところ、タワマンの建築はひと月で2層出来てしまう。

 タワマンの建設現場をご覧になったことのある方は、その建設スピードに驚かれたはずだ。タワマンはあっという間に空に向かって伸びていく。なぜなら、太い柱と床さえ鉄筋コンクリートで固めてしまえば、あとは工場から運ばれてきたALCパネルや乾式壁を嵌めこんでいけばいいのだから。

 このように施工はやりやすいのだが、中長期で考えるとタワマンの構造は厄介だ。通常のマンションは床と外壁の鉄筋コンクリート部分が継ぎ目なくつながっている。強力な地震で外壁に大きなひびでも入らない限り、雨水が浸入することはない。しかし、外壁にALCパネルを使っているタワマンは、いってみれば継ぎ目だらけ。継ぎ目にはコーキング剤と呼ばれる、接着と防水機能を持った粘液が使われる。これが固まって雨水の浸入を防ぐのだが、このコーキング剤は15年程度で劣化するとされている。だから、15年に1度程度、古いコーキング剤を掻き出して新しいものを注入しなければならない。

 つまり、タワマンはその構造的に15年に1度程度の外壁修繕工事が必須になるのである。しかも、湾岸エリアにあるタワマンには塩分が混じった雨風が吹き付けるので、コーキング剤の劣化が早まる可能性も指摘されている。この15年が更に短くなる可能性すらあるのだ。

 だが、タワマンは階数が高いため、外壁の修繕工事が通常のマンションに比べて格段に難しい。普通のマンションなら、建物のまわりに足場を組めば外壁の修繕工事は容易だ。しかし、工事用の足場は17階あたりまでしか組めない。それから上はどうするのか?

 現状では、屋上からゴンドラを吊るして作業するやり方が採用されることが多い。しかし、これだと、強風時には作業ができないので、工事期間が長くなる。タワマンは建築時には1カ月に2層が出来てしまうのに、外壁の修繕工事は1カ月に1層。60階のタワマンなら計算上43カ月もかかることになる。

 さらに深刻な問題はその費用だ。通常のマンションなら、外壁の補修を伴う大規模修繕工事の費用は戸当たり100万円程度が目安だ。しかし、タワマンの場合は戸当たり200万円以上。これも昨今の人件費の高騰で、値上がり傾向にある。今後は300万円程度を見込んだ方が良い。多くのタワマンでは、何とか第1回の大規模修繕は行える。しかし、2回目はエレベーターや上下水道管の取り換えが伴うので、1回目よりも費用がかさむと考えるべきだろう。

 だから毎月徴収する修繕積立金の値上げが必要となる。値上げには、管理組合の総会で値上げ議案の議決という手続きを経る必要がある。賛成多数で値上げしても、経済的に払えない人も出てくる。

 2回目の大規模修繕を乗り越えても、3回目はどうだろうか。おおよそ建築後45年から50年あたり。私は半分以上のタワマンでは、住民の経済的理由などで3回目以降の大規模修繕は不可能になると予測する。

 通常のマンションは、細やかにメンテナンスを行えば50年以上住めるのはほぼ確実。現に60年以上も十分使用に耐えたマンションもあった。だが、タワマンに限っては「45年限界説」が有力そうである。

榊淳司(さかきあつし)
不動産ジャーナリスト。1962年京都市生まれ。同志社大学法学部、慶應義塾大学文学部卒。1980年代後半から30年以上、マンションの広告、販売戦略に携わる。著書に『限界のタワーマンション』『マンション格差』など

週刊新潮 2020年3月19日号掲載

特別読物「実態は『超高層レオパレス』 資産下落と階層差別の『タワマン残酷物語』」より

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