「新型コロナ恐慌」で中国経済「3月初旬」最大危機

国内 政治 Foresight 2020年3月1日掲載

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 中国の「新型コロナウイルス」感染は、習近平政権の強権的な押さえ込みで、拡大ペースが落ちてきた。早めの春到来で気温が上がってウイルスの活動が低下すれば、3月中旬にも山場は越えるだろう。

 だが、感染拡大阻止優先で脇に置かれていた経済は、重篤な状態に陥っている。

 ヒト、モノの動きが止まり、「売り上げゼロ」企業が続出しているからだ。

 市民は外出を控え、最低限の食品と医療関連の購入、スマホゲームのダウンロードくらいしかお金を使わず、消費は想像を絶する落ち込み。

 投資もウイルス対策の病院関連以外はゼロ水準に近い。

 法人税減税、社会保険料減免などの政府の企業支援は、瀬戸際の企業を救うにはあまりに迂遠だ。

 中国経済は「コロナ恐慌」のただ中にある。

「売り上げゼロ」

 2月10日、中国の多くの地域では、コロナ感染拡大阻止のため延長されていた春節(旧正月)休暇が明け、企業活動が再開した。とはいえ、現実にはオフィスへの出勤者は制限され、工場も全面再稼働からはほど遠い。

 工業情報省は2月24日の記者会見で、

「全国の中小企業の事業再開は3割程度」

 との分析を示した。

 その後、2月末までに企業の稼働はさらに進んだが、外出や交通が規制されたままの地域では交通量は激減、ショッピングモールは開店休業状態で、街中の商店、飲食店も細々と営業しているだけで、企業は需要喪失に直面している。

 消費の落ち込みを統計で確認することはできないが、筆者の中国の知人らから直接間接に聞こえてくる声によれば、

「先がみえない以上、必要最低限のものしか買わない」(北京市民)

 と、財布のひもを固く締めている人がほとんどだ。

 2003年の重症急性呼吸器症候群(SARS)の際には、外出しない市民が、当時勃興期だった「アリババ」などeコマース(電子商取引)を自宅で利用し、eコマースが急激な発展を遂げる契機となった。

 ただ今回は、アリババの配達が要員不足で遅滞し、自社配送体制を持つ第2位の「京東集団」(JD)も稼働しているものの交通規制がネックとなり、全体としてはeコマースは不発。

 2003年にはなかったフードデリバリーサービスも、「美団点評」「餓了麼」の大手2社とも配送員の確保ができず、注文に応え切れていない。

 そうした状況から、物品と外食の消費は、平時の30%水準とみる関係者が多い。

 中国政府の景気てこ入れの常套手段はインフラ建設だが、今回は人の動きを封じ込めているだけに建設工事を進められる状況ではなく、手の打ちようがない。

 鉱工業生産は「新中国発足以来最低」と言われるほどの低調ぶりだが、都市部では商品が欠品する店は目立っていなかった。春節に向けた恒例の在庫積み上げ分が、消費減退でゆっくりと取り崩されてきたからだ。在庫の販売で企業、商店とも2月中旬までなんとか持ちこたえてきた。

成長率がマイナスの恐れも

 だが、「売り上げゼロ」状態が長期化すれば当然、給与や仕入れ代金の未払い、融資の返済不履行などが急増する。

 すでにそのターニングポイントは越えつつある。

 そのため、中国人民銀行は商業銀行に企業向け緊急融資の拡大を指示、2月14日までに計5370億元(約8兆4000億円)の新規融資が実行された。

 だが、支払いや融資返済は今後累積的に増大するため、

「3月初旬に中国企業にとって危機の最初の大波が来る」

 と金融関係者は指摘する。

 ポイントは、感染終息後の景気回復の速度にある。

 2018年春に始まった米中経済戦争は、2020年1月中旬の「第一段階合意」など貿易摩擦の部分的緩和はあっても継続しており、むしろドナルド・トランプ米大統領による「ファーウェイ」などの中国製造業包囲網は、一段と強化されている。

 中国企業の投資マインドは新型コロナウイルス感染以前から冷え込んでおり、感染終息後も投資意欲が早期に回復する要素はみあたらない。

 多くの企業経営者は感染症以上に、トランプ政権の対中バッシングの動向に神経をとがらせている。中国からの輸出が困難になれば、拠点を東南アジアなどに移転しようという考えがあるからだ。

 1~3月期に落ち込んだ消費が4~6月期、7~9月期にその分、上乗せになって盛り上がるかといえば、難しい。庶民は感染症不安に加え、雇用や収入の先行きへの懸念から「守り」に入り、貯蓄志向に転換しているためだ。

 2008年のリーマンショック直後には「需要の瞬間蒸発」と言われたが、2009年後半には需要は急回復し、2010年には自動車、家電など耐久消費財の販売は大きく伸びた。失われた需要はタイムラグを置いて現実化した。

 これに対し、現在の消費マインドは「消費の後ろ倒し」ではなく、「消費の見直し」「購入予定のキャンセル」に向かっており、失った需要分で後々、現実化する部分は多くはない。庶民にとって最後の砦である住宅を守るため、ローンの支払いを優先したいという気分が強まっている。

 中国の国内総生産(GDP)の伸びのうち、最終消費の寄与率は2019年には61%となった。その7割が個人消費であり、固定資産投資などを大きく上回る。個人消費が減退すれば、中国経済の成長力は弱まる。

 今年1~3月期については、成長率がマイナスに落ち込む可能性が高い。

 消費の冷え込みぶりをみれば、4~6月期の回復も望み薄。

 本格的な回復の兆しがみえるのが7月以降とすれば、2020年通期では感染症がなかった場合の元々の成長力が6%あったとしても、成長はその半分程度に落ち込み、3%台とみるのが順当だろう。感染症の終息が遅れれば、これをさらに下回る恐れもある。

電子・電機産業は急回復か

 一方、世界が注目している中国の電子・電機産業は、中国経済全体のトレンドとは違って、急回復する可能性が高い。

 世界のノートパソコンの86%、スマートフォンの75%、白物家電製品の72%は中国の工場で生産されている。その大半が1月末から2月中旬の期間にほぼ稼働せず、その後の稼働率も地域によって異なるものの、平均すれば30~35%に低迷している。

 春節休暇で出身地に帰った工場のワーカーが感染を恐れてなかなか職場に戻って来ないため、人手不足が深刻化しているうえに、部品や原料の供給が途絶え、組み立てができないというケースも多発している。

 パソコン、スマホのように安定的に需要のある商品の供給がこれだけ細れば、市場には需要が蓄積し、需給逼迫が起きる。世界は中国の電子産業の回復を求めざるを得ない。

 さらに、今年は5G(第5世代移動通信システム)の本格的な普及の年になり、基地局設備やスマホ、さらに関連したデータセンター、IoT(モノのインターネット)設備などの需要が急増するという特殊要因もある。そうした5G関連製品・部品の過半が広東省を中心とする中国国内で生産される。

 長期的にはトランプ政権による追加関税や技術面での中国メーカー排除の動きで、電子・電機メーカーの「脱中国」の動きが加速する不安はあるが、電子機器分野での中国依存は当面、続くのは間違いない。

 中国の電子・電機産業の立ち直りは早いだろう。中国にとって、電子・電機産業がコロナ恐慌を乗り切る唯一の支えと言っていい。

 世界にとっても中国の生産回復が遅れれば、世界的に5Gの普及・展開のスケジュールが大幅に狂うだろう。

重厚長大「国営企業」がカギ

 コロナ恐慌の今後をみるうえで、もう1つ重要なアングルがある。重厚長大型産業を中心とする国有企業の先行きだ。

 今回の感染拡大は鉄鋼、セメント、アルミ、造船、重機や石炭、石油などエネルギー産業の需要を落ち込ませた。国有企業が多数を占める分野であり、同時にそうした国有企業が集中する東北3省、河北省、山西省など特定地域も直撃している。政府がインフラ投資で需要創出しようにも、プロジェクトを推進できるような状況ではない。

 今後、そうした地域で国有企業の破綻が連鎖的に起き、中国の北部地域が軒並みマイナス成長に転落する恐れもある。電子・電機産業が急回復する望みのある南部と国有企業の破綻が増える北部という地域格差が広がれば、中国政府にとって新たな課題、新たな政治的圧力となる。

 国有企業の破綻は経済の問題だけではない。中国共産党の基盤は国有企業にあり、国有企業の衰退は共産党組織の弱体化につながりかねないからだ。

 今回の感染拡大の責任を追及する国民の声も共産党に向いており、習政権は発足以来最大の難所にさしかかっている。

後藤康浩
亜細亜大学都市創造学部教授、元日本経済新聞論説委員・編集委員。 1958年福岡県生まれ。早稲田大政経学部卒、豪ボンド大MBA修了。1984年日経新聞入社。社会部、国際部、バーレーン支局、欧州総局(ロンドン)駐在、東京本社産業部、中国総局(北京)駐在などを経て、産業部編集委員、論説委員、アジア部長、編集委員などを歴任。2016年4月から現職。産業政策、モノづくり、アジア経済、資源エネルギー問題などを専門とし、大学で教鞭を執る傍ら、テレビ東京系列『未来世紀ジパング』ナビゲーター、ラジオ日経『マーケットトレンド』などテレビ、ラジオに出演。講演や執筆活動も行っている。著書に『ネクスト・アジア』『アジア力』『資源・食糧・エネルギーが変える世界』『強い工場』『勝つ工場』などがある。