【新型コロナ】シンガポールは日本に次ぐ感染者数 アジアの優等生が被害を拡大させた3つの誤り

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政府対応を批判したメディアが閉鎖

 東京五輪を控え、いまだ中国人旅行客を入国させている日本とは比べ物にならないが、シンガポールでの感染がここまで広がった背景には、国内報道の“規制”があるのではと私は見ている。

 日本の報道の中には、シンガポールの肺炎対策を「迅速で徹底している」と褒める声もあるようだ。では何故、被害を最低限に抑えられなかったのか。少なくとも、シンガポールに拠点を置き取材活動する欧米主要メディアは、1月の段階で、「国民は政府の対応の遅れを批判」「中国マネーが大事」などと、批判的な報道を行っていた。

 こうした報道は、海外メディアだからこそできたといえるだろう。昨年10月、シンガポールでは「偽ニュース・情報操作対策法」施行された。その名の通り、フェイクニュースを取り締まるための法律で、同種の法は、共産党政権の中国やベトナム、軍事政権のタイで施行が検討されている。フランスでは2017年の仏大統領選へのロシア介入疑惑で適用されたのも記憶に新しい。

 シンガポールの偽ニュース対策法は、他のどの国よりも厳しい罰則を規定している。「虚偽内容を『悪意』をもって発表した場合、100万シンガポールドル(約7990万円)以下の罰金か10年以下の禁錮刑、あるいはその両方が科される」(英フィナンシャルタイムズ紙)ことになっている。

 もともと、報道の自由という点において、シンガポールは決して優れている国ではない。「国境なき記者団」(パリ本部)が2019年発表した報道自由度ランキングでは、他の東南アジア諸国のマレーシア、タイ、フィリピン、インドネシアなどより下位の151位だった(ちなみに日本は67位)。経済面では優等生だが、これには驚かれるのではないか。

 この偽ニュース対策法は、施行以来、すでに10件も適応されている。その対象は野党指導者、独立系オンラインメディアなどで、シンガポールの死刑囚を扱う報道を巡っては、隣国マレーシアの人権団体らと法廷闘争に発展してもいる。

 実はシンガポールの国内主要メディアは、国が運営し、政府が大株主となっている。となれば、海外のメディアのような取り上げ方はできない。こうした政府主導の報道が、国内の感染拡大の一因になったとまでは断言しないが、中国に気を遣う当局と国民の間に立ち、「注意喚起」という本来のメディアの中立的役割を果たせなかったのだ。

 もっとも、国内メディアが尻込みしたのも無理はない。新型コロナウイルスをめぐる報道でも、偽ニュース対策法が適用され、すでに政府から“物言い”がついた例があるからだ。俎上に挙げられたのは、独立系オンラインメディアの「States Times Review」。これまでも、腐敗阻止を目的に数億円ほどの高額給与を受けるシンガポールの大臣らを「オープン・コラプション(政府公認の腐敗)」と指摘し、政府を追及してきた媒体だ。

 今回、「States Times Review」は、春節で中国に帰郷していた3万人の労働者を条件付きで再入国させると決めた政府の対応を批判。2月19日、内容の訂正を求められたが、これを拒否した。すると政府は、サイトを閉鎖するよう、プロバイダーの米フェイスブック社に指示し、サイトは強制閉鎖された。こうしたシンガポール政府の検閲に、フェイスブックを始め、ツイッター、グーグル各社は、アジア本社をシンガポールに置いているが、同社らが加盟するアジアインターネット連盟は「ネット上の真偽判断を政府が決定するもので、懸念をおぼえる」とする声明を発表した。国際問題にも発展しつつあり、英ガーディアン紙は「フェイスブックなどのIT大手や人権活動家などが非難する対フェイクニュース法は、反体制派を抑え込む『ぞっとするような恐怖』の強権を振りかざした制度」と指摘する。

 とはいえ、シンガポール国民も黙ってはいない。「States Times Review」に偽ニュース対策法が適用されたことに、政府を非難する書き込みがSNSに殺到。政府は国民の不評を買っている。

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