「チバニアン」を救った市原市のウルトラC市条例

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 今後、世界中の地学の教科書に載るはずだ。国際地質科学連合の理事会は1月17日、約77万4千年から12万9千年前の地層時代を「チバニアン」と命名すると正式決定した。地質年代に日本の地名が冠せられるのは初の快挙。地元の千葉県市原市は歓喜に沸き立っているが、その道程は平坦ではなかった。

 日本の研究チームが、国際学会に「チバニアン」を申請したのは3年前のこと。正式決定までに、複数の国際学会による4段階の審査を受ける必要があり、1次審査で日本の前に立ちはだかったのは同様の地層を持つイタリアだった。

 研究チームの代表を務める茨城大学の岡田誠教授が振り返る。

「地質学は欧州中心で、我々は最初から不利でした。その上、イタリアは見事なデータを揃えていたので危機感を抱いたのです」

 岡田教授は国内外の研究者に協力を求め、強力なライバルを上回る資料を作成。なんとかイタリアに競り勝って、1次審査を突破した。が、その後、岡田教授と同じ茨城大の楡井(にれい)久名誉教授がデータは捏造だと主張し、暗雲が垂れ込めたのだ。岡田教授が続ける。

「捏造とする意見は、学術的に反論できるものばかり。2次審査でも反対派の意見は取り上げられることもなく、通過しましたが……」

 2次審査通過後の一昨年7月、楡井名誉教授がチバニアンの真下にある土地の賃借権を取得して“絶対に立ち入らせない”と主張。研究者の自由な立ち入りができなければ、申請自体が白紙に戻る恐れもあった。

「3次審査には“アクセスの自由”が条件に含まれていたので困りましたが、市原市が条例を制定して後押ししてくれたお陰で何とかなりました」(同)

 市議会は昨年9月、調査研究目的でのチバニアンへの立ち入りを保証する条例を制定。ウルトラCとも言える方法で“障害”を取り除いたのだった。

 市原市ふるさと文化課に聞くと、

「土地の所有や賃貸借に関わる問題ですから、条例案の作成段階で様々な意見が出ました。パブリックコメントでは少なからず反対意見があったものの、議会の採決は全会一致で可決。市原市だけの問題ではなかったので、結果的に条例を制定して良かったです」

 ちなみに、楡井名誉教授はいまだに納得していないという。

週刊新潮 2020年2月6日号掲載

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